「お前はこれからのこととか決めとる?」
「決めてないよ、そんなの」
「嘘や」
「なんで嘘だと思うの?」
「だってお前も海の向こう側いつも眺めとるじゃん」
「あんたを連れていかないでって睨んでるだけだよ」
「なんだ、俺らやっぱり両想いやったんや」
彼の目尻が嬉しそうに下がった。私はりょーたよりもこの街に長く住んでいるから、そのぶん人と出会ってきたし、この街から出ていく人の背中も見てきた。
『いってらっしゃい』『頑張ってね』
自分は頑張る勇気がないくせに、新たな一歩を踏み出す人たちにそんな言葉をかけてきた。
私にとって、この街は居心地が良すぎる。街の人たちが暖かくて優しくて、私のことを傷つける人なんて誰もいない。
だから私は、りょーたとここにいたかった。彼を繋ぎ止めていい権利なんてないくせに、今もなお行かないでほしいと思っている自分が嫌いだ。
「一緒に行こうや、瑛茉」
彼に名前を呼ばれると、体に火を投げ入れられたみたいに熱くなる。
私はりょーたと違って、語りたい思い出はない。家族も友達も学校も、この街に来るまでの毎日は暗くて寂しいものだった。
人間関係に苦しんで誰も信じないと決めていた私に光をくれたのは、いつも傍にいてくれたりょーただった。
大切になって、特別になって、その真っ直ぐな瞳に何度も心を持っていかれた。