彼がこの街にやってきた日のことは今でも忘れない。

『これからなかようしてね』なんて、初めて聞く訛りにみんなは戸惑っていたけれど、りょーたはすぐに私よりも多くの友達を作った。

私は正直、彼のことが苦手だった。

許可した覚えはないのに馴れ馴れしく名前で呼んできたり、まるで昔からの知り合いみたいな笑顔を向けてくるところが胡散臭いなって思っていた。

でも月日を過ごしていくうちに、私は彼のことを目で追うようになった。どこにいてもりょーたがいないと不安になってしまうくらい、彼の存在は私にとって大きなものになっていった。

「やっぱりここの海は綺麗やな……」

寝転んでいた体を起こして、りょーたが海を見る。

彼の視線はいつだって、地平線の彼方に向いていた。まるでこの先にある世界を見ているような瞳は、万華鏡の中みたいに輝いている。

「りょーたが生まれた町って、香川県のほうなんだっけ」

「そうだよ。瀬戸内海の近く」

彼は漁師をやっていたおじいさんの影響で、子供の頃からよく船で釣りをしていたらしい。

そうやってりょーたは家族のことや友達のこと、通っていた学校のことを私にたくさん話してくれた。

お喋りが好きな彼とは違って、私はあまり自分のことは話せないけれど、りょーたはなにも聞かずに、ただただ楽しいだけの話を聞かせてくれた。

そんな彼とどのくらいの月日を一緒に過ごしただろうか。

いつかりょーたがこの街から出ていってしまうことは分かっていたけれど、私はそのいつかが永遠にやって来なければいいと思っていたんだ。