私の隣に座ったりょーたの日焼けした髪は、潮風に吹かれても揺れない。サンダルといい髪の毛といい身なりに無頓着な彼だけど、顔がいいからそこそこモテる。

「そっちこそ私に隠してることがあるんじゃないの?」

「あー、お前のことが好きってついにバレたか」

りょーたのこういう適当なところは楽だけど、たまに本気で腹がたつこともある。

「お前はなんで昨日の約束、すっぽかしたん?」

彼は空を仰ぎ見るように、防波堤に寝転んだ。

りょーたの行動は単調で予測しやすい。いつも私の都合なんて関係なく押しかけてくるくせに、大事な話がある時には必ず場所を指定して呼び出す。

過去の経験から総合的に見て、そういう時の話は私にとって良かったことが一度もない。

だから私は逃げた。なのに今日になって呼び出された防波堤に足が向いた。また呼び出されるくらいなら、待ち構えてやろうと思った。そのおかげで、だいぶ心は落ち着いている。

「みんな泣いてたよ。あんたがいなくなると寂しいって」

彼は歩く太陽光みたいな人で、その光を惜しみ無く分けてあげることができる人でもあるから、みんなりょーたが好きだった。

漁師のおじちゃんもパン屋のおばちゃんも、生意気な小学生たちからも好かれていた。そんな彼がこの街から出ていくということは、街から海がなくなるのと同じくらい一大事なのだ。

「そうやって人づてに聞かんために、昨日呼び出したのに」

「だったら私に一番に言えばよかったじゃん」

「地引き網作戦だよ」

「なにそれ」

「俺の決意が揺るがんために色んな人に伝えたあと、お前に言いたかったんよ」

だったら尚更一番に言いにきてほしかった。それで揺れに揺れたらいい。

私だってずっとここにいてほしいと思っている。でもそれは彼にとって良いことではないとみんなが知っているから、寂しいと涙を流しても無理やり引き止めたりはしない。

りょーたのことを思うのなら、笑顔で見送らなければいけない。