水面を撫でる風はいつだって生命の匂いがする。
紺碧の海原に向かって伸びている防波堤。テトラポッドに打ち寄せる純白の飛沫が、少しばかり残っている暑さを洗い流していた。
ずっと続くと思っていた夏がもうすぐ終わる。
上空を飛び回っていた海猫の鳴き声は落ち着き、太陽を追いかけていた向日葵も今は自分の影と見つめ合う日々。どこもかしこも八月に置いていかれないための準備をはじめているのに、彼だけは季節を越えるつもりはないらしい。
「お前、俺に隠しとることない?」
薄っぺらいサンダルの音が私の後ろで止まった。一年中履いているビーチサンダルは鼻緒が痛み、元の色がなんだったのか分からないくらいに褪せている。
「あんたに隠してることなんて、いっぱいあるよ」
「ひでえ。俺ら長い付き合いなのに」
友達といえば浅くて、昔馴染みといえば堅苦しい彼の名前は亮太。みんなからりょーたって呼ばれているから、私もそう呼んでいる。