「またこれか」

 明継は布団に寝転んだまま、眉間にしわを寄せて呟いた。
 その脇にはいつも通り嗣己が座っていて、嬉しそうに明継の顔を覗き込んでいる。

「昨日は随分と頑張っていたな?」

 嗣己の言葉は労いではなく揶揄いだ。
 ゆっくりと体を起こした明継が大きなため息とともにぼやいた。

「何か掴めた気がするのに、また途中から記憶が薄い」

「そう簡単に掴めるものでもないだろう。だが他に、何か変化があったんじゃないか?」

 言われて、明継は記憶を探った。

「そういえば、お前らの話し声が聞こえた」

「そうか」

 嗣己の口元が微かに綻んだ。

「でも、今は聞こえない」

 明継は首をかしげ、答えを求めるように嗣己を見つめた。

「当たり前だ。普段は聞こえないようにこちらが遮断している。何でもかんでも聞かれ聞かされじゃ精神がまいる」

「そんな事もできるようにならないといけないのか」

 表情を曇らせた明継に、嗣己が呆れて笑う。

「精神感応なんぞ腕を変形させるより遙かに簡単だ。こんなに不器用な奴は初めて見た」

 大半の事は体力で解決ができた円樹村とは違い、ここでは繊細さも求められる。
 中々上手くいかない現実に口を尖らせた。

「どうせ俺は不器用だよ」

「そう拗ねるな。お前は緋咲と組めば良い成績を残せそうだ。あいつはお前と真逆で繊細なんだ。感知や読心には長けているが戦闘力の面ではまだ弱い」

「……お前って意外とそれっぽい事言うんだな」

 明継が思ったままの言葉を口にすると

「そういうところだ」

 と、嗣己が頬をつねった。

「今晩も可愛いペットをくれてやる。今日こそお前が乗っ取れ」

 嗣己はそう告げると、明継の返事を待つこともなく消えた。