嗣己(しき)明継(あきつぐ)緋咲(ひさき)に大紀を加えた霞月(かげつ)の4人は寂池村(じゃくちむら)へ足を踏み入れた。
 田畑は管理されずに朽ち果て、作物は動物に食い荒らされている。そこら中に鳥が留まって餌を狙い、野生動物は民家を生活の拠点にしていた。
 寂池村は自然豊かで人が多い村だった。今や、その面影はどこにもない。

「緋咲、何かいるか?」

 嗣己が村を見渡して問う。

「恐らく2つ。村の中の方が力は強そうね。山の中にもう1つ……だけど、さすがに正確な場所は割り出せないわ」


「2人で住むには広すぎる村だな」

 と、嗣己が独り言のように呟くと、大紀に村を囲む山の偵察を指示した。

「ここに何がいるんだ? 1人で行かせて大丈夫なのか?」

 心配そうに問う明継に嗣己は

「恐らく化け物じゃない。能力者だ」

 と、答えると緋咲に視線を向けて彼女が頷くのを確認した。

「山の捜索は大紀でなければ時間がかかる。やむを得ん」

 それから大紀を見て

「お前は戦闘能力が無いに等しい。対象を見つけても接触はするな」

 と念を押した。
 山へ向かった大紀を心配そうに見つめる明継に嗣己が向き直る。

「明継。お前は民家を覗いてこい」

「ん? わかった」

 明継は嗣己に言われるままに近場の民家を覗きに行くと、中から立ち込める異臭に顔を歪めた。袖で鼻を抑えながら土間に入ると、その異臭は足を進めるほどに強烈になっていく。
 部屋に繋がる引き戸の隙間から中を覗けばそこには動物に食い荒らされた青白い何かがいくつも落ちている。大半は鋭利な刃物で切り離されたような断面を見せていて、それが人間のバラバラ死体だと認識できるまでには時間が必要だった。
 明継は胃の不快感を感じて民家を飛び出した。

「ひどい有様だろ」

「お前、何があるかわかってたな!?」

 その様子に薄ら笑いを浮かべた嗣己に明継が抗議する。
 しかし、顔を青ざめた明継には、それ以上彼を咎める気力もないようだ。

「誰かを秘密裏に痛めつけるなら、どこでする?」

 明継の背中をさする緋咲を見つめて嗣己が問いかける。

「私なら行事品をしまう蔵ね。行事がなければ人は来ないし頑丈な鍵もついてる。都合がいいわ」







 村のはずれまで行くと、そこには大きな蔵があった。
 扉に手をかけた明継は、先ほどの臭いをまた感じ取って顔を顰める。

「この村はどうなってんだよ」

 扉を開いた先には大量の肉が転がっていた。
 蛆が這いまわり、ハエが飛ぶ。明継は中に入る気になれず早々に扉を閉めて振り返る。緋咲の名前を呼ぼうとしたが、2人の視線の先にある、少年の姿にその言葉を飲み込んだ。