『9月1日土曜日
 土曜日なのに学校があるっていやだ。学校に行きたくない。死にたくて仕方がない。』
『9月3日月曜日
 死にたいなぁ。もう、生きたくないよ。』
『9月4日火曜日
 別に死にたい理由があるわけじゃないと思う。でも、この世界はとても息苦しくて、生き苦しい。仮面を被らなきゃ、みんな私から離れていく。誰も、本当の私を見つけてくれない。これって悲劇のヒロイン気取りなのかもしれないけど、苦しいものは苦しいしさ。仕方ないかなって秘かに思う。』
『9月13日木曜日
 今日の昼休みは屋上で遊んでいい日だった。別に遊びに行ったわけじゃないけど、私も屋上に行った。先生が屋上のドアの前で生徒たちのことを観察?監視?していた。だから、私は先生の死角の端っこのフェンスに近づいた。別に、死のうと思ったわけじゃなくて、なんとなく。なんとなく近づいたフェンスに足をかけた。頭から落ちれば確実に死ねるなって思いながら。そしたら、男の子が声をかけてくれて、最後に、死ぬなよって言ってくれた。うれしかった。すごくうれしくて、泣きそうになった。こんな私を止めてくれるんだって。止めてもらえる価値があるんだって思えた。うぬぼれているのは分かっているけれど。だから、その子に笑った。ありがとうって意を込めて。その男の子の名前は沢海繋君。繋っていい名前だよね。止めてもらった時、私の闇に、一筋の光が差し込んだ気がした。とっても暖かい温もりが。それとさ、なんか、よくよく考えてみたら、去年もきれいな女の子に私、自殺を止められたよね。私の誕生日の前日って不思議。』
『9月18日火曜日
 今日生徒会選挙の前触れ?ていうのかな。なんか朝礼で立候補者が三十秒くらい喋るのがあってね、なんていうか反吐が出ちゃった。過ごしやすい学校生活を作りますだの、一番の思い出になるような学校生活を作るだの、笑顔あふれる学校にするだの。きれいごとばかりでさ。過ごしやすい学校生活を作るっていうなら、私みたいな希死念慮や自殺願望のことを少しでもいいから、認めてくれる居場所を作ってほしい。別に、希死念慮や自殺願望ファーストにしてほしいんじゃない。ただ、そういう人がいるっていうことを分かってほしい。受け入れてくれなくていい。受け止めてくれればいい。誰かがよかれと思って言ったことが私達にとってはすごく辛いことっていうことを知っておいてほしい。だって、そんな無責任な励ましやきれいごとを言われたって、辛いだけなんだもの。笑顔あふれる学校生活を作りたいのなら、希死念慮や自殺願望に無責任な言葉をかけるんじゃなくて、同情するんじゃなくて、軽蔑するんじゃなくて、何も言わないでほしい。死にたいなんて言葉を軽々しく言わないでほしい。そう思うけど、言えない。だって、中学生がどうこうできることじゃないもの。国を背負っている政治家たちだってできていないのだから。』
『9月20日木曜日
 今日席替えがあって、私を止めてくれた沢海君の隣になった。女子とあまり話さないで有名な彼だったけれど、私がよろしくって言ったら、こちらこそ、って返してくれた。うれしかった。』
『9月25日火曜日
 今日、英語の作文を書かなくちゃならなくって、大変だった。別に英語をかくのが難しいってわけじゃない。ただ、作文のテーマがね。私には難しかった。ねぇ、なんだと思う?
 将来の夢。
 それが作文のテーマだった。もう難しくてね。だから、隣の沢海君に聞いてみた。君の夢は何なの?って。そしたら、沢海君、そんな先のこと考えてないってさ。私と同じだった。でも、私の場合はそんな先のこと考えられない、なんだけどね。考えてないじゃなくて。だって、いつ死ぬか分からないから。
 でも、本当は。本当はね、私にも夢があるんだ。叶うはずなんてないけど。希死念慮は夢なんて持っちゃいけないはずだけど。』
『9月26日水曜日
 今日も英語の授業で、将来の夢について作文を書かなくちゃいけなかった。ホント、苦痛。だから、今日も隣の席の沢海君に話しかけた。夢ってなきゃいけないのかなって呟いたら、別になくてもいいんじゃね?て言ってくれた。夢ってなんか綺麗な感じしない?て言ったら、彼、すごいこと言うんだよ。とても同い年では言えなそうな。夢っていうのは、叶わねぇから綺麗なんじゃないのかって。それを聞いたとき、その通りだと思った。夢とかに向かって頑張れる人はこういう事を考えないで、ただまっしぐらに進んでいるんだろうけど、私や沢海君みたいに夢とかがなくて、どうすればいいか分からない人にとっては、夢っていうのは綺麗な存在なんだよね。だって、叶わないから。それにもし、叶ってしまったら、もうその夢は自分の姿となって、醜くなってしまうから。』
『9月27日木曜日
 希死念慮と自殺願望の違いって、すごく大きい。多分、その違いは、私みたいな人にしか分からない。普通の人に説明したって、分かってくれない。普通の人たちにとってはとっても小さな違いだけど、私にとってのその二つは大きな違い。希死念慮っていうのは、理由がないけど死にたい人。自殺願望っていうのは、理由があるから死にたい人。ね?すごく大きな違いでしょ?普通の人は分からない。死にたい理由、の有無の大切さを。私の死にたい理由は、とてもちっぽけだから、私は希死念慮なんだよね。私は自殺願望じゃなくて、希死念慮だから、死にたいって大きい声で言えない。死なせてって、大きい声で言えない。死にたいなんて言葉、口にできない。だって、理由が小さいから。』
『9月28日金曜日
 最近、日記の中でもそうだけど、学校でもずっと沢海君と話している。沢海君が隣にいると、少しだけ、仮面を外せるんだ。少しだけ、心が休まるの。沢海君がいると助けられる。安心する。』
『9月29日土曜日
 嗚呼どうして私は、こんなにも汚いんだろう。仮面を必死に作って、被って、自分を取り繕って。自分が嫌になる。』