中学に入って、あいつと出会った。
名は、永川笑愛、というらしい。学級委員だった。
八か月前とは、ずいぶん印象が違っていた。貼り付けた笑顔。計算された言葉遣い。姉と言い合っていた彼女とは、想像がつかなかった。けれども、中学に入って五か月がたって。姉と言い合った日から、ちょうど一年がたった日に。
あの娘は、飛び降りようとしていた。学校の、屋上で。
先生が監視しているところからずいぶん離れたところで、彼女はフェンスに足をかけていた。
嫌な予感が頭をよぎって、思わず声をかけた。
初めて、だった。あいつと喋るのは。
「お前、何してんの?」
そしたら、
「別に、ただ空を眺めていただけだよ」って。
分かりやすい嘘ついて、彼女は誤魔化した。
飛び降りようとしただろ、なんて言えなかった。彼女があまりにも、綺麗だったから。
「で、本当のところは?」
「空があまりにも碧いから、飛べそうだなって」
「飛ぶなよ」
「いま、はまだ、飛ばないよ」
いいと、それでいいと思えた。飛ばないのなら。
でも、俺はあの時、肝心な語句を聞き逃していた。
彼女は、笑った。泣きそうな笑みで。いつもの貼り付けた笑顔ではなかった。俺の顔を、あの時みたいに、まっすぐと彼女は見た。あの、綺麗な瞳で。
嬉しかった。変わっていなかったことが。貼り付けた笑顔じゃなくて、本当の笑顔を見せてくれたことが。そして、死ななかったことが。
名は、永川笑愛、というらしい。学級委員だった。
八か月前とは、ずいぶん印象が違っていた。貼り付けた笑顔。計算された言葉遣い。姉と言い合っていた彼女とは、想像がつかなかった。けれども、中学に入って五か月がたって。姉と言い合った日から、ちょうど一年がたった日に。
あの娘は、飛び降りようとしていた。学校の、屋上で。
先生が監視しているところからずいぶん離れたところで、彼女はフェンスに足をかけていた。
嫌な予感が頭をよぎって、思わず声をかけた。
初めて、だった。あいつと喋るのは。
「お前、何してんの?」
そしたら、
「別に、ただ空を眺めていただけだよ」って。
分かりやすい嘘ついて、彼女は誤魔化した。
飛び降りようとしただろ、なんて言えなかった。彼女があまりにも、綺麗だったから。
「で、本当のところは?」
「空があまりにも碧いから、飛べそうだなって」
「飛ぶなよ」
「いま、はまだ、飛ばないよ」
いいと、それでいいと思えた。飛ばないのなら。
でも、俺はあの時、肝心な語句を聞き逃していた。
彼女は、笑った。泣きそうな笑みで。いつもの貼り付けた笑顔ではなかった。俺の顔を、あの時みたいに、まっすぐと彼女は見た。あの、綺麗な瞳で。
嬉しかった。変わっていなかったことが。貼り付けた笑顔じゃなくて、本当の笑顔を見せてくれたことが。そして、死ななかったことが。