大切な人。多分、出会ったのは、姉の見舞いの時だ。
姉が病院の屋上に行くのが見えて、あとをつけて驚かそうと思っただけだった。でも、姉が屋上のドアを開けて、しばらくして、姉が泣き叫ぶように言葉を放った。何事かと思い、ドアを少し開けて、俺は覗き見た。
「じゃあちょうだいよ!貴女に何があったかは知らないけど、私よりは苦痛じゃないはずよ。だって、貴女達は、我慢すれば苦痛みとかは終わるじゃない。いじめだってなんだって、我慢すれば終わるじゃないのよ!なのに、みんな命無駄にして、我慢すれば終わるのに、自殺しちゃって、この世界には生きられない人がたくさんいるのに……!」
姉の声だ。初めて聞いた、必死に誰かに縋るような声。
「この世界には、死にたい人も、死ねない人も、沢山いる。好き勝手言いうなよ。死にたい人も死ねない人も沢山いるんだよ。生きたい人や生きたくても生きられない人達と、どうして生まれてきたんだろう、って泣きながら考えたり悩んだりしている人は同じくらいいる」
それから、言い合いをしているうちに相手のほうの声も大きくなった。恐らく、相手は希死念慮なのだろう。
「はぁ⁉どこの生物界に自分で命を捨てるやつがいるわけ?そんな生物、人間しかいないのよ!生物界では、自分で命を絶つなんて手段ないのよ⁉これからでも人間の傲慢さが分かるのに、貴女は分からないわけ?」
「分かんないよ、どうして自殺はだめなの?もっと赤ん坊でも分かるように説明してくれる⁉」
嗚呼、あの娘は。
希死念慮だけど、死にたくない、生きていたい、と言っているような気がした。
必死に、助けて、と言っている気がした。
嗚呼、あの娘は、生きたいんだなぁ、と。
俺と同い年の女の子が、何やら言い合った後、ドアのほうへ向かってきたから、隠れた。
ドアが乱暴に開いて、俺は思いっきりドアに頭をぶつけた。
か、かっこ悪っ……。
何事かと思ったのだろう。ドアを開けた女の子が俺を一瞥した。
まっすぐ、ただまっすぐ、きれいな焦げ茶色がかかった瞳で。
綺麗な女の子だった。姉と違って。
「あれ?繋、いたの?あーもしかして見ていた?」
「うん」
「すごいよね。久しぶりに刺激もらったわー。ホント、病院って刺激ないからさ。寝ているか、読書するか、テレビ見るか、友達と話すかだからさ」
「そう」
「たく相変わらずねー。昔はあんなに活発で、よく話す子だったのに。あ、でもここまで来たということは、私を驚かそうとしてあとをつけてきたんでしょ」
姉は結構な慧眼だった。姉はもともと頭が良かったし、推測力もあったから、これくらいお見通しなのだろう。
「あの娘ともう少し早く会いたかったね。ホントに」
「名前とか、聞いてないわけ」
「……。あの言い合いで聞けるわけがないでしょ。さーてと、病室戻るか!そろそろ看護師来るし」
姉は俺の前を通り過ぎて、呟く。そして俺はあの時、初めて姉を綺麗だと思った。
「あの娘ともう少し早く会っていれば、あの娘はあんなことにならなかった。だってあの娘はあんなにも生きたいと言葉の裏腹で叫んでいたんだもの。きっとあの娘はこれからも自分から助けを求めない。誰かに気付いてもらうのを待っているだけ。でも気付かれても、誰かが死ぬなと叫ぼうともあの娘は、口を割らずに笑って我慢するんだろうね。あの子は絶対に自分に溜め込んで、死んじゃう」
そして、最後に姉は一筋の涙を流しながら、俺でも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。
「笑愛、また、あそこで会うまで死なないでよ」と。
姉が病院の屋上に行くのが見えて、あとをつけて驚かそうと思っただけだった。でも、姉が屋上のドアを開けて、しばらくして、姉が泣き叫ぶように言葉を放った。何事かと思い、ドアを少し開けて、俺は覗き見た。
「じゃあちょうだいよ!貴女に何があったかは知らないけど、私よりは苦痛じゃないはずよ。だって、貴女達は、我慢すれば苦痛みとかは終わるじゃない。いじめだってなんだって、我慢すれば終わるじゃないのよ!なのに、みんな命無駄にして、我慢すれば終わるのに、自殺しちゃって、この世界には生きられない人がたくさんいるのに……!」
姉の声だ。初めて聞いた、必死に誰かに縋るような声。
「この世界には、死にたい人も、死ねない人も、沢山いる。好き勝手言いうなよ。死にたい人も死ねない人も沢山いるんだよ。生きたい人や生きたくても生きられない人達と、どうして生まれてきたんだろう、って泣きながら考えたり悩んだりしている人は同じくらいいる」
それから、言い合いをしているうちに相手のほうの声も大きくなった。恐らく、相手は希死念慮なのだろう。
「はぁ⁉どこの生物界に自分で命を捨てるやつがいるわけ?そんな生物、人間しかいないのよ!生物界では、自分で命を絶つなんて手段ないのよ⁉これからでも人間の傲慢さが分かるのに、貴女は分からないわけ?」
「分かんないよ、どうして自殺はだめなの?もっと赤ん坊でも分かるように説明してくれる⁉」
嗚呼、あの娘は。
希死念慮だけど、死にたくない、生きていたい、と言っているような気がした。
必死に、助けて、と言っている気がした。
嗚呼、あの娘は、生きたいんだなぁ、と。
俺と同い年の女の子が、何やら言い合った後、ドアのほうへ向かってきたから、隠れた。
ドアが乱暴に開いて、俺は思いっきりドアに頭をぶつけた。
か、かっこ悪っ……。
何事かと思ったのだろう。ドアを開けた女の子が俺を一瞥した。
まっすぐ、ただまっすぐ、きれいな焦げ茶色がかかった瞳で。
綺麗な女の子だった。姉と違って。
「あれ?繋、いたの?あーもしかして見ていた?」
「うん」
「すごいよね。久しぶりに刺激もらったわー。ホント、病院って刺激ないからさ。寝ているか、読書するか、テレビ見るか、友達と話すかだからさ」
「そう」
「たく相変わらずねー。昔はあんなに活発で、よく話す子だったのに。あ、でもここまで来たということは、私を驚かそうとしてあとをつけてきたんでしょ」
姉は結構な慧眼だった。姉はもともと頭が良かったし、推測力もあったから、これくらいお見通しなのだろう。
「あの娘ともう少し早く会いたかったね。ホントに」
「名前とか、聞いてないわけ」
「……。あの言い合いで聞けるわけがないでしょ。さーてと、病室戻るか!そろそろ看護師来るし」
姉は俺の前を通り過ぎて、呟く。そして俺はあの時、初めて姉を綺麗だと思った。
「あの娘ともう少し早く会っていれば、あの娘はあんなことにならなかった。だってあの娘はあんなにも生きたいと言葉の裏腹で叫んでいたんだもの。きっとあの娘はこれからも自分から助けを求めない。誰かに気付いてもらうのを待っているだけ。でも気付かれても、誰かが死ぬなと叫ぼうともあの娘は、口を割らずに笑って我慢するんだろうね。あの子は絶対に自分に溜め込んで、死んじゃう」
そして、最後に姉は一筋の涙を流しながら、俺でも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。
「笑愛、また、あそこで会うまで死なないでよ」と。