「なあ、なんで母さんは俺のこと、きずなって呼ぶの。俺の名前、けい、じゃないの」
 姉が重病を患っている時、何故か出て行った母に、昔聞いたことがあった。
「貴方の名前は、お父さんがつけてくれたの。貴方のお父さんは、貴方は、人と人とをつなげる子になってほしいと願って、きずな、という意味もある、繋という字を付けたのよ。それでね、いつか貴方に大切な人ができたら、きずなって呼ばれるといいわねーみたいになって。ほら、恋人とかができたら、二人だけの間、とか」
「いや、名前の由来じゃなくて、なんで俺のこと、けい、って呼ばないのって聞いているんだけど?姉貴がいないときは俺のことそう呼ぶのに」
世那(せな)に言ったら、人前でも呼びそうでしょ?お見舞いに来た友達の前でとかね。それに私は貴方の本当に大切な人(女の子)以外に呼ばせるつもりはないわよ」
「母さんは女の子に入らないわけ?」
 そう聞いたら、母に思いっきり殴られた。
「私はレディよ。でもその前に私には伴侶がいて、貴方は息子ですからね。それに私は、けい、よりも、きずなのほうが好きだから」
 昔から優しくて、笑顔の母が好きだった。だから、母が好きだという、きずな、という名前が好きになった。いつか大切な人ができたら、なんて分からないけど、自分の名前を大切にしようと思った。