SIDE沢海繫
九月十三日金曜日に、永川笑愛が自殺を図った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 誰かが、叫んでいる。誰かが、泣いている。そして誰かが、血を流している。
 喉が、とてつもなく痛い。身体が、とてつもなく熱い。そして目の前にいる彼女の言葉が蘇る。
 雷を伴う大雨だったというのに、光が差し込む。重い雲と雲の間から暖かい琥珀色の光。そして、雲の間から覗く空の色は、碧色。
『ねぇ、沢海君。君は、誰かが、じゃなくて。誰かのために流す涙とかを無駄だと思う?』
『君は……私が死んだらどう思う?』
『沢海君、握手しよう。拒否権なし。あと、十三時に家庭科室に来て窓見てよ。もちろん先生たちにバレないようにね。来なくても良いけれど。……それと、何かあったら、左手を見てね。お願い』
 左手。
彼女の左手を見る。彼女の左手には‘なにか’が握られていた。震える手で、彼女の握られていた手をゆっくり解く。そして、彼女の唇が、かすかに動く。その唇から、小さな声が漏れる。
「きずな、くん。止めてくれて、ありがとう」
「あああああああああああああああああああああああ」
 誰かが、また叫んでいる。誰かなんて、分からない。けれど、喉が焼けるように痛い。視界がぼやけて、あいつの姿が霞む。
 心臓が凍り付いて、血だらけな彼女を抱きしめる。
 どうして、どうして、どうして。お前が、その名前を言うんだ。どうして、お前は、飛び降りたんだ。
 何も考えられない。呼吸すらもできない。
 考えられるのは一つだけ。