寒風が吹き荒れ、午の刻を刻んだ師走。東京にある人影のない寺院墓地に、一人の少女がいた。その少女は、墓の前で手を合わせていた。その墓にはE・Nと書かれていて、少女は、墓に書かれていた名前の主と過ごした時間を思い出していた。
「笑愛、貴女は生きたかったんだね」
 少女はぽつり、と呟き、思った。
――生きたいと思っていた貴女が明日を見失って、生きる意味が分からない私は今も生きていて。俯いたまま、大人の階段を上って、過去を見ながら前へと進んで
 あの日、E・Nと書かれた墓石の主が自殺を図った日。
「どうして、貴女は生きたいと思っていたのに、死んでしまったの?どうして貴女の生きたいと思う心に従わなかったの?私だって、私だって、生きるのが怖いよ。でも、私は……っ。死ぬほうが怖い。死んでしまうのが怖い。私は貴女と生きたかった。生きたかった……!」
 誰もいない寺院墓地で、少女は泣き叫んだ。
「貴女は、私を救ってくれたのに、私は何もできなかったんだね」
少女は墓石に向かって自嘲する。少女はポロポロと頬に涙を伝いながら、墓石の主に言う
「笑愛、沢海、ちゃんと助けてくれたよ。三嘴から守ってくれた。
 貴女が亡くなって、一か月くらい学校行けなくなったんだよ。で、登校したとき、三嘴に『アンタのせいで笑愛が死んだの!』って言われて、頬叩かれたんだ。そしたら、沢海がすんごい形相で三嘴の手を掴んで、『笑愛に前言われたよな。次はないって。』って言って、なんかよくわかんないけど三嘴、停学だか退学だかになったの。だから、ありがとう。沢海はちゃんと助けてくれたよ、笑愛」
 少女は頬に涙を流しながらも、しっかりとした口調で墓石の主に言った。
 そして少女はその自分の涙を拭った。

 少女は遠くから鳴る十三時を告げる鐘を耳にしながら、寺院墓地を去っていった。