永川笑愛は飛び降り自殺で亡くなった。
　彼女が自殺を実行した十三時間後に。彼女がこの世に生まれた日時に。
　一度、彼女は心拍を取り戻して、安定した状態となったはずだった。けれど、彼女が生まれた時間の数分前に異変が起こり、そのまま息を引き取った。
　何故そんなことになったのかは、誰も分からない。
　ただ、彼女が息を引き取ったと言われてから、妙に騒がしかった。私と同じく外で待っていた沢海は笑愛がストレッチャーで、運ばれたとき、何かを叫んでいた。
「おい、おい。あいつの臓器、提供するなんて、やめろよ。おい！」
　何もかもがよく分からない。ただ、頭に浮かぶのは、謝罪の言葉だけ。
　近くにいたのに、気付かなくてごめんなさい、と。同類なのに、共感できなくて、話を聞くことさえもできなくて、ごめんなさい、と。
　信じたくなかったけれど、信じるしかなかった。信じなくちゃいけなかった。
　もう彼女はいないことを。
　もう彼女の明日はやって来ないということを。
　もう彼女の笑顔は見ることができないのだということを。
　もう彼女には会えないことを。
　もう彼女と他愛ない話ができないのだということを。
　もう彼女と過ごした何気ない毎日が幕を閉じたということを。
　煌々としていた毎日がもう過去となってしまったことを、分からなければ、ならなかった。