ただ、過去を見ている。過去を生きている。楽しかった過去を、取り戻せるのではないかと思って、ずっと過去を見て、生きている。
 一番楽しかったのは、七歳の頃だった。母に癇癪を起されて、殴打されていたところを父に見つかって、通報された歳。強引に施設に入らされた歳。初めて、友人ができた歳。
 見知らぬ大人に施設に連れられて、ずっと泣いていた。お母さんに、会いたかったから。
 殴打されているから、お母さんのことが嫌い?違う。叩かれてもいいから、息の根を止められてもいいから、あの時はお母さんと一緒に暮らしかった。お母さんと一緒にいたかった。
 ずっと、お母さんに会いたいって、泣き叫んだのに。
 大人の変な正義感に突っかかれて、施設に入らされた。
 友達も、家族も誰もいない。いるのは、理不尽な大人だけ。
 助けるだとか、命を守るだとか、そんなきれいごとをほざいている、大人だけ。そんな施設の人が、大嫌い。
 ちょっとした正義感で施設に入れて、適当にあしらって、友人をきっと死なせたであろう大人なんて、肝心な所で助けてくれない大人なんて、大嫌い。