SIDE永川笑愛
 九月十三日金曜日。今日は‘あの日’のように、澄み渡るような、碧い空ではなかった。明日すらも見えないような、きれいな碧色ではなくて、大雨だった。
 実行日の今日も、私はいつも通りの時間に起きて、いつも通りの時間に家を出る。
「いってらっしゃい、笑愛」
「お母さん、ハグしていい?」
「どうしたの?急に」
 母に‘さいご’の私の言葉を告げる。
「んー、なんとなく。じゃあね‘いってきます’」
 母のことは、あまり好きじゃなかった。でも、やっぱり、別れるのは辛い。嫌いなはずの母なのに。
 今日で、最後なんだから、甘えたっていいでしょう?少しくらい。いつも通りではないけれど。少しくらい、甘えさせてよ。だって甘えるのは今日で最後なんだし。父が亡くなってから、私たちは必要最低限しか、喋らなくなってしまったんだから。
 いつものように、、涙の跡を隠して家を出る。
 そして、いつも通りに学校に向かって、いつも通りに授業を受ける。
 そう、全てはいつも通りに。
 やることは、すべて終わった。あとは、沢海君への質問だけ。
「おはよう、沢海君。こんな早くから悪いけど、質問していい?今日、半日だから」
「……月曜日じゃダメなわけ?まぁいいけど」
 駄目だよ、私、もうその時いないじゃん。
「んー、やっぱり、後ででいいや」
 頑張っているね、沢海君。いろいろと。
 残り、四時間だ。