教室の時計は、十二時五十八分を指していた。どうやら私は四十分も考えていたらしい。こういうときに自分の頭のなさに悔いる。
 先生たちはもういない。
 何も持たずに、乱暴にドアを開けて、階段を駆け上る。
 早くしないと、笑愛が、自殺してしまう。きっとそれは頭のどこかで分かっていたこと。だけれど、それをずっと無視していたのは私。実行する何か、なんて、そんなの自殺以外ありえない。 
 多分彼女は、助けて、という言葉を知らない。自分がその言葉を使っていいことを知らない。
 いつもそんな感じだった。だから次は私が教える。貴女が助けて、という魔法の言葉を教えてくれたように。だって、彼女が助けてくれたから。だって彼女が悪くない、と私は悪くないと、言ってくれたから。慰めてくれたから。
 だから、次は私の番。私が助けたり、慰めたりする番。
 お願い神様、もし、もしも、私に名前通り心があるのなら、優しさがあるのなら、笑愛を。
ねぇ、神様初めてできた桜希以外の友達なんだよ。相手が同類だと思っているのだとしても、私は友達だと、いや、それ以上の存在だと思っているから。そうだよ、私はエゴだよ。
 もし、止めたら彼女はどうして止めたの、と憤るかもしれない。
 こんな世界と早くサヨナラさせてよ、と言って泣くかもしれない。絶交させられてしまうかもしれない。
 それでもいい、それでもいいから。助けさせてよ、神様。
 だって、生きていれば、たとえ絶交させられようとも、何をされようとも、なんだってできるんだから。
 仲直りだってできるし、喧嘩だってできるし、共に何かを共感することだってできるから。
 そう、生きてさえいれば。
 そう、死ななければ。