永川笑愛、その四文字がの頭に浮かぶ。笑愛の笑顔が脳裏によぎる。
 笑愛しかいない。贈り主は笑愛しか、あの娘しかいない。
 じゃあ、どうして今日なの。どうして九月十三日なの。どうしてあの娘の誕生日の前日なの。
 夏休みに話した内容が鮮やかに蘇る。
『素数』
『十三』
『金曜日。理由はイエス・キリストが処刑された日だから』
『十三日の金曜日』
『それもあるけど。私が好きな人が殺された日だから。古代ローマの軍人であり政治家だった、ジュリアス・シーザーが十三日の金曜日に殺されたの』
 今日は、笑愛にとって、十三歳の最後の日だ。それに今日は、十三日の金曜日。
 彼女の好きな数字がそろう、そんな日にち。
 笑愛は必ず今日、何かを実行する。理由は分からない。じゃあどこで、実行するのか。
『自殺するなら私は、飛び降りかな。』
 笑愛の声が聞こえた気がした。やるなら飛び降り。いつの日か言っていたことを思い出す。
 どこでやるのだろう。家?廃ビル?違う。もっと、近い場所。
 学校。
 学校だ。家に帰ってからまた学校に来るなんて馬鹿がやることだ。頭のいい笑愛がやるわけない。じゃあ何時に?笑愛の好きな数字は、十三。

 だから、実行する時間は。