傷だらけの身体で部屋に駆け上がる。金曜日に贈られた十一通の手紙とリストカットセットを防水ポーチに入れて、傘もささずに、いつの間にか家を出る。
 あんな家、とボソッと呟いて、誰もいない道路にたきつける雨の中でただ無心で歩いていた。何も考えずに、何も思わずに。
 なんで、こうなってしまったのだろう。
 私は小さな公園のベンチに座っていた。
 顔を雨雲に向けて目をつぶる。
「どうして、こんなことになっちゃったんだろうなぁ」
 誰かがそう呟いた。
 本当に、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 なんで、生まれてきてしまったんだろう。
 もう嫌だ。明日が、見えない。
 もし、私に名前通り、心や優しさがあったら何か変わっていたのだろうか。
 誰かから出た溜息が灰色の空に消えた。
 笑愛に会いたい。
 笑愛と話しをしたい。
 笑愛に、聞いてもらいたい。
 終業式以来、連絡を取っていない。こっちからも、あっちからも何もしていなかった。
「羅月さん?」
 聞きたかった声が背後からした。会いたかった人が背後にいた。
「泣いていたんだね」
 どうやら私は雨に紛れて泣いていたらしい。
 笑愛はよくわからないが、傘を地において、大雨を堪能するかのように手を広げていた。
「雨っていいよね」
 傘もささずにベンチに座っていた私が思うのもなんだけど、コイツ、頭大丈夫か。
「……。さては羅月さん。リスカが親にバレたな?」
 相変わらず鋭かった。
 そして私はいつの間にかベンチから立たされ、笑愛にどこかへ連行されていた。
 何故か笑愛に手を引かれ、ずぶ濡れ状態で歩いていた。一方笑愛は、傘をさして濡れずに歩いている。
「だって、羅月さんはもうこれ以上ないくらいびしょ濡れだし、今更さしてもって感じじゃん?」
 先程、体を大の字に広げて三十秒ほど雨に打たれていたのは誰かと聞くと、お茶目な答えが返ってきた。
「えー羅月さんもしかして私と相合傘したいの?いやーん照れるなぁ。私も相合傘したいのはやまやまなんだけれどね、傘が小さいし。あーもー、そんなに怒らないでって。後で熱いお風呂に入れて、新しい着替えも用意するからさ」
 どうやら、私は笑愛の家に連行されているらしい。
 この緩い語尾と口調からたまに本当に彼女が自殺願望なのかが疑わしくなる時がある。でもそれが、彼女が誰にも気づかれない理由だ。