「羅月さんは、死にたいの?」
 六月に入ってから、私は笑愛に、聞かれた。
「うん。死にたかった」
 どうして、彼女が私にその質問を問うてきたのかは知らない。でも、偽って答えるのはよくないと思った。だから、そう告げた。
「ってことは、今は違うってことだよね」
 そうだよ、とは口にできなかった。口にしてはいけないと思ったから。
 笑愛と、話しているときはいつも生きたいと思っている。生きていたいと、まだ、死にたくない、とそう思ってしまっている。けれど、夜になると死にたいと、消えたいと思ってしまう。夜になると、いつも闇に紛れてしまう。夜になると、いつも過去を見て、過去のことが蘇って、泣いてしまっている。
「いま、は違う」
 彼女のおかげで、ずいぶん過ごしやすくなった。いやがらせはなくなっていないけれど、最近は、殆ど彼女が隣にいるから、三嘴と関わるのが少なくなった。
 学校も、三日に一回は休むけれど、引き籠りにはなっていない。身体が重いのは、相変わらずだけれど、耐えられた。
「貴女は、死にたいの?」
「死にたくない、と言ったらうそになる。けれど、早くこんな世とサヨナラしたい」
「どうして」
「ごめんなさい。いくら同類にでも、言えない。そんなことって笑われてしまうから」
 同類という言葉に胸が痛む。笑愛にとっての私は友達ではないのかと。ただの同類なのかと。たとえ、その感情が自分のエゴだと分かっていても。
「じゃあ、じゃあ貴女は、死ぬの?」
「んー、死ぬかどうかは分からないなー。でも自殺するなら何だろうね。首吊りかな?あ、飛び降りもいいね。死体は汚いし失敗したら厄介だけど。入水と切るやつは一番やりたくない。入水の場合は苦しいじゃん?腕切りは論外だよね。自傷行為なら後遺症とかないけど、自殺となると動脈切らないといけないでしょ?私痛いの嫌いだから。やったことないけど、腕切り落とす感じで切んなきゃならないでしょ。あ、神経が切れれば痛くないのか……。その前に、私の神経はもう既に切れているのか……。羅月さんと違って、グッサリ派だし。ま、それは置いといて。飛び込みだと、家族への負担と乗客とかに膨大な迷惑がかかるから、なしだし。焼身、凍死、感電、餓死、クスリは嫌だね。私は、やるなら飛び降りかな。走馬灯見てみたいのもあるけど。なんていうか本能って感じ?」
 結構怖いこと言うので、彼女にバレないように身震いする。ていうか、え?笑愛って神経切ったの?
 でもその前に、彼女が自分の悩みをこんなこと、というのなら、たとえ出過ぎたことでも言ってやる。
「あのさ、人の悩みに軽いとか、重いとか、そんなのないから。笑愛が悩んで、死にたいと思ったのなら、笑愛の死にたい理由は、立派な理由だよ」
 笑愛は何も言わなかった。その時の彼女の表情は、私は知らない。ただ、私のその時の感情は、い、言っちゃったぁ、である。
 家に帰って自分の放った言葉に後悔したのは言うまでもない。