SIDE羅月心優   
ゴールデンウィーク明けの一週間後から、三泊四日の効外学習がある。
私が永川笑愛と握手を交わしてから一週間後の今日は校外学習のグループ決めの日だった。
「みーゆ。アンタはアタシと同じグループでしょ?」
 私のいやがらせの張本人が自分のグループに誘ってくる理由は二つある。一つは、退屈しのぎのため。もう一つは、学習時に、彼女の好きな人と私が喋らないように見張るため。それ以外だったら、多分私と同じ空気も吸いたくないだろうから、誘うことはない。そっちのほうがよっぽど気が楽。それは、彼女も分かっている。だから、誘ってくる。
 彼女はもう、私の答えを分かっている。
 なのに、聞いてくるのは、先生の目があるから。表面上、相手の了承を取らなくては、先生に不信感を抱かれてしまうから。
逆らえば、今よりもっと酷いことをされる。だから、何もできないけれど、精一杯の抵抗として、思いっきりに相手を睨んだ。
怖い、という感情を押し殺して。震える手を隠して。唇から血が出るくらい強く、強く我慢して。
「駄目だよ、三嘴さん。羅月さんは、私たちのグループに入ることになっているんだ。だから、譲ってもらっていい?」
 笑顔で、助け舟を出してくれたのは、やっぱり、笑愛だった。
「三嘴さんのグループ、女子ばっかりで、羅月さんも入れたら、男子一人になっちゃうよ。男子一人じゃ可哀想でしょ。五人グループなのだから、せめて二人は男子にしたほうがいいと思うよ」
 それに、と笑愛は、三嘴に耳打ちをした。
 笑愛の話を聞き終わった後、三嘴は頬を緩め、けれども私を睨みながら、踵を返した。
 頬を緩めながら睨んでも迫力はないというのに。
「羅月さんも構わない?私たちのグループで。沢海君と他男子二人は……、構わないよね?」
 学級委員の彼女は、ほかのメンバーが頷くのを見て笑った。
「あの、え…永川。あり、」
「ん?」
「三嘴から助けてくれて、ありがとう」
「……」
 返ってきたのは沈黙だった。彼女と目を合わせないままお礼を言ったから、怒っているのだろうか。礼儀というのは、きっと目を見て行動するものだから。
 恐る恐る彼女を見ると、彼女も、小さな声で、言った。近くでしか聞こえないような声で。
「どういたしまして。それと、もう、我慢しちゃだめだから」
 あと、と笑愛は付け加えて、彼女の茶色のかかった瞳で、まっすぐ私を見て言った。
「下の名前でいいよ」
 やっぱり、彼女といると、楽になる。一番の理由は恐らく、三嘴と、グループやペアを組むことが少なくなったからなのだと思う。三嘴に話しかけられる度、笑愛が笑顔で彼女の話を遮って、彼女の耳で囁く。何を囁いているかは、全く分からない。
 そして、その日、手紙が私の机の中に入っていた。贈り主の名が書かれていない手紙が。
 ワープロで書かれた素っ気ない字からは思いもよらないような、心に寄り添うような一言が綴られた、そんな手紙が入っていた。

 そして、その週の金曜日から、毎週手紙が贈られるようになった。