彼女と‘曄の海’の話をしてから、沢山くだらない話をして、笑った。
「ね、永川の誕生日っていつ?」
 いつも彼女は急に質問する。彼女のそういうところが、好きだった。
「……。」
「永川?」
「ごめん、ちょっと考えごとしていた。えっと、誕生日はね。十二週間後の金曜日、つまり九月十四日。ちなみに早朝二時ピッタに生まれたんだって。母が言っていた」
「じ、じゃ、永川のタイプは?」
「いきなりだね。んー、三高かな」
「あー、一世代前のね。高身長、高学歴、高収入だっけ?」
「それに加えてイケメンで優しいのと礼儀が正しい人ね。あと、低音ボイスがいい。あ、髪はストレートで、瞳の色は碧色がいいな。皇子だったらなお、よし」
 それは、曄の海の、ベイ皇子のことだった。
「沢海は違うの?優しいかどうかは知らないけどさ。高身長だし、成績だってすごくいいじゃない。低音ボイスで、髪はストレート。礼儀だって正しそうだけどね。目の色は真っ黒だけど、綺麗な黒色なんじゃない?」
「確かに低音ボイスだけど、私好みじゃないの。沢海君低音だけど、なんか違う。私は深みがあって、よく通る声で、耳になじむような感じじゃないとダメ」
「それ、嘘でしょ」
「何が」
「今言ったこと。大体、低音ボイスで髪がストレートで、瞳の色が碧色で、尚且つ皇子って、永川の今の推し、じゃないの。あ、沢海君といえば、体育とか色々参加しないってうわさだよね。どうしてか、永川知ってる?」
 羅月さんは、沢海君について私に聞く。その質問には、答えられなかった。いや、答えたくなかった、というほうが正しいかもしれない。そして、羅月さんは、私の嘘が分かるようになってきた。きっと彼女は私を胡散臭い人だと思っていることだろう。
「あれー分かっちゃった?」
 私はおどけたように笑う。本性を隠すように、本心を悟られないように。
「分かるよ。ていうか分かるようになってきた。で、本当のところは?」
 軽い口調で、取り繕った回答をして誤魔化す。
「えー。んーとぉ、私の本性を知っても離れて行かない人。私の話をちゃんと聞いてくれて、間違っていても否定しないでくれる人、かな」
「沢海は違うの」
「ホント、羅月さんは沢海君を推すよね。なぜ?」
「萌えるからに決まっているでしょ?それに、笑愛と沢海だったら美男美女でお似合いだから」
「あ、そ」
 彼女と喋っているとき、少しだけ、生きていたい、と思えた。
 久しぶりに、生きたいと思えた。

 でも、すぐに終わることは、知っている。知っている。