三年後、月原先生は産休に入ることになった。
 たかが産休、そう思うかもしれない。でも、私たちは先生の産休の間に卒業するかもしれないから、盛大な儀式をやって、校庭で先生を送り出した。出口まで人がいっぱいで、私もそれに紛れていた、そのはずなのに。先生は、
「笑愛。自分を大切にね。それでもって、自分の名前を大切にね。貴女ならきっと自分の名前にふさわしい女性になるわ。でも、無理しちゃいけないわよ、貴女は貴女のままでいいから。なんか嫌なことがあっても、自分のこと傷つけちゃだめよ。」と言ってくれた。
 だから私はこう答えた。無理なんてしてないよ、と。自分を傷つけてなんかないから、と。
 普通に答えたつもりだったが、少しだけ声が震えた。
「んーもうっ!相変わらずね、笑愛は。そういうのをツンデレっていうのよ。ツンデレにはやっぱりヤンデレ系の男子か包容力抜群系男子ね。あ、百合でも……じゃなくて!本当に無理しちゃだめよ。周りなんて、気にしないで。無理に笑わなくてもいいんだからね、泣いちゃっていいんだからね。あーでも、私はやっぱり王道のヤンデレ×ツンデレに一票かしら。いや、包容力抜群系美形男子でもいい。いいわぁ……じゃなくてね、元気でね」
 従姉曰く月原先生は、フジョシ、らしい。ソーゴフジョ、とかいう熟語の意味のフジョ、と同じだと思うから、きっとそのあだ名は間違っていないのだと思う。先生はいつだって誰かを助けているから。よく分からないけれど。