SIDE永川笑愛(ながかわえま)
昔の夢を見た。小学校低学年のころの夢を。大好きな先生との思い出が、夢に出てきた。
「笑愛はね、テストの点数なんか別にいいって、無関心みたいな顔しているけどね、本当は人一倍気にしていて、誰にも見られないように努力しているんだよね。それに結構完璧主義だし」
 多くの生徒に囲まれる中、そう笑いながら言い放ったのは、月原珖慧(つきはらひな)先生。私が通っていた学校の大人気教師だった。生徒の誰もが先生のことが好きで、休み時間になると生徒に囲まれる先生は、私の一番好きな人だった。
 ずっと隠し通していた秘密(こと)がみんなの前で暴露されて顔から火が出る思いの反面、私は強気で言い返す。
「別に、そんなんじゃないしー。大体先生、人一倍って何?一倍って人と同じじゃん!」
「ふぅん。テストで百点取れなくて泣きそうになっていたのに?宿題を家に忘れたときなんて顔が真っ青だったのに?怒られるのが怖くて、ガッタガタに震えていたのに?え?永川笑愛(ながかわえま)さん?」
 何も言えずにそっぽを向く私を見て、先生は微笑む。先生の笑顔が好きだった。