SIDE永川笑愛
昔の夢を見た。小学校低学年のころの夢を。大好きな先生との思い出が、夢に出てきた。
「笑愛はね、テストの点数なんか別にいいって、無関心みたいな顔しているけどね、本当は人一倍気にしていて、誰にも見られないように努力しているんだよね。それに結構完璧主義だし」
多くの生徒に囲まれる中、そう笑いながら言い放ったのは、月原珖慧先生。私が通っていた学校の大人気教師だった。生徒の誰もが先生のことが好きで、休み時間になると生徒に囲まれる先生は、私の一番好きな人だった。
ずっと隠し通していた秘密がみんなの前で暴露されて顔から火が出る思いの反面、私は強気で言い返す。
「別に、そんなんじゃないしー。大体先生、人一倍って何?一倍って人と同じじゃん!」
「ふぅん。テストで百点取れなくて泣きそうになっていたのに?宿題を家に忘れたときなんて顔が真っ青だったのに?怒られるのが怖くて、ガッタガタに震えていたのに?え?永川笑愛さん?」
何も言えずにそっぽを向く私を見て、先生は微笑む。先生の笑顔が好きだった。
きっと、私は、とても運がよかったのだと思う。
先生と二年間、一緒にいられたから。先生に二年間教えてもらうことができたから。
先生は綺麗な人だった。優しかった。私の、憧れだった。ずっと、一緒にいられると思っていた。ずっと、先生の下で教えられるのだと思った。
だから。
だから、先生と離れたとき、嫉妬した。先生の学生でなくなった時、先生の元教え子となった時、どうしようもなく悲しかった。
一つ上の学年に上がって、廊下で先生が今の教え子達と笑っているのを見かける日が多くなって辛かった。私と同じ先生の元教え子達は、躊躇いもなく今の教え子達の輪に入って、楽しそうに笑っているに、あの輪に入る勇気が私にはなかった。
だって、先生は今、あの子達の先生でしょう?私みたいな元教え子が輪に入ったら、あの子達が、かわいそうでしょう?
昔、先生の元教え子達が来たとき、先生はもうアンタ達の先生じゃないから、もう来ないでよ、と思ったことがあった。だから、きっとあの子達も私達と同じようなことを思っているはずだ。
いくら、私達がほかの学年の子達と違って先生に二年教えてもらったのだとしても。
先生が、今の教え子達と楽しそうに喋っているのを見ると、あそこは私の場所だったのに、と少しだけ嫉妬する。嫉妬なんてしたくなかったから先生を避けるようになった。
廊下ですれ違っても、下を向いて、足早に先生の群れから離れる。
でも、ある時、先生は。周りに生徒がいないときに、
「笑愛、元気?」と、聞いてくれた。
「元気だから、学校に来ているんですぅ」
いつも通り、いつも通り答えたつもりだった。けれど、先生は私を抱きしめてから、
「笑愛に会いたいな」って言ってくれた。
「頑張ったね」って言ってくれた。
もう会って、喋っているでしょ?なんて、言えなかった。一体私は何を頑張ったというの?なんて、言えなかった。だって、嬉しかったから。だって、先生は私のことを忘れているのかと思っていたから。先生が、温かかったから。
昔の夢を見た。小学校低学年のころの夢を。大好きな先生との思い出が、夢に出てきた。
「笑愛はね、テストの点数なんか別にいいって、無関心みたいな顔しているけどね、本当は人一倍気にしていて、誰にも見られないように努力しているんだよね。それに結構完璧主義だし」
多くの生徒に囲まれる中、そう笑いながら言い放ったのは、月原珖慧先生。私が通っていた学校の大人気教師だった。生徒の誰もが先生のことが好きで、休み時間になると生徒に囲まれる先生は、私の一番好きな人だった。
ずっと隠し通していた秘密がみんなの前で暴露されて顔から火が出る思いの反面、私は強気で言い返す。
「別に、そんなんじゃないしー。大体先生、人一倍って何?一倍って人と同じじゃん!」
「ふぅん。テストで百点取れなくて泣きそうになっていたのに?宿題を家に忘れたときなんて顔が真っ青だったのに?怒られるのが怖くて、ガッタガタに震えていたのに?え?永川笑愛さん?」
何も言えずにそっぽを向く私を見て、先生は微笑む。先生の笑顔が好きだった。
きっと、私は、とても運がよかったのだと思う。
先生と二年間、一緒にいられたから。先生に二年間教えてもらうことができたから。
先生は綺麗な人だった。優しかった。私の、憧れだった。ずっと、一緒にいられると思っていた。ずっと、先生の下で教えられるのだと思った。
だから。
だから、先生と離れたとき、嫉妬した。先生の学生でなくなった時、先生の元教え子となった時、どうしようもなく悲しかった。
一つ上の学年に上がって、廊下で先生が今の教え子達と笑っているのを見かける日が多くなって辛かった。私と同じ先生の元教え子達は、躊躇いもなく今の教え子達の輪に入って、楽しそうに笑っているに、あの輪に入る勇気が私にはなかった。
だって、先生は今、あの子達の先生でしょう?私みたいな元教え子が輪に入ったら、あの子達が、かわいそうでしょう?
昔、先生の元教え子達が来たとき、先生はもうアンタ達の先生じゃないから、もう来ないでよ、と思ったことがあった。だから、きっとあの子達も私達と同じようなことを思っているはずだ。
いくら、私達がほかの学年の子達と違って先生に二年教えてもらったのだとしても。
先生が、今の教え子達と楽しそうに喋っているのを見ると、あそこは私の場所だったのに、と少しだけ嫉妬する。嫉妬なんてしたくなかったから先生を避けるようになった。
廊下ですれ違っても、下を向いて、足早に先生の群れから離れる。
でも、ある時、先生は。周りに生徒がいないときに、
「笑愛、元気?」と、聞いてくれた。
「元気だから、学校に来ているんですぅ」
いつも通り、いつも通り答えたつもりだった。けれど、先生は私を抱きしめてから、
「笑愛に会いたいな」って言ってくれた。
「頑張ったね」って言ってくれた。
もう会って、喋っているでしょ?なんて、言えなかった。一体私は何を頑張ったというの?なんて、言えなかった。だって、嬉しかったから。だって、先生は私のことを忘れているのかと思っていたから。先生が、温かかったから。
