大和は知らない。

無意識に自分より劣っている奴を見つけては、わざわざそいつを比較対象にして安心しようとする癖が俺にはある。

高校に進学してからそれが悪化しているような気がしていて、だから俺はジミズが気になっているのかもしれない。

善人である大和の目にはジミズがどう映っているのだろう。


「あのさ。ジミズってどう思う?」

「ジミズって、あのよく泣いている奴?」

「そう」


記憶を辿っているのか、それとも言葉を選んでいるのか。

大和はしばらくの間腕を組みながら天井を見つめていた。


「顔は可愛いけど別にタイプじゃない。第一、近付き難いよな、あいつ」


ようやく返ってきた言葉が(おおむ)ね予想通りのもので、俺は安心する。


「だよな。あいつ、いっつも泣いてるし、変だよな」

「あ、ごめん。近付き難いっていうのは、自分の世界に入り浸っているからって意味で。ほら、あいつ休み時間とかさ、いつも絵を描くのに夢中になってんじゃん。芸術家気質っていうのかな、ちょっと狂気的で怖い」


心臓が大きく脈を打つ。

知っている。これはやらかした時に鳴るやつだ。

その次に来るのは、全身の毛穴から熱くなった汗が吹き出してくるような熱いような痛痒いような不快感。

思った以上に自分が小っちゃい奴だってことが露呈されて、死にたいくらい恥ずかしくなった。

勘違いしちゃいけない。大和は俺なんかよりずっと大人なんだ。


「てか、何でジミズの話になんのさ」

「い、いや、別に。ちょっと気になったっていうか。だってあいつ、普通じゃないじゃん」

「まあ、俺もそんなイメージ持ってる。確かに普通じゃないよな」


苦し紛れに言い訳する俺に面倒臭そうに同意する。どうやら大和にとっては取るに足りない話題らしい。

これ以上話を続けるのは不毛だと思ったのか、大和はあっさりと席を立った。話を遮るのはいつもあいつの方からだ。


「まあいいや。俺、これからバイトあるし、そろそろ行くわ」

「あ、ああ。ポテト、ごちそうさま」

「良いって。凪も夏休みにバイトでもしたら?俺のバイト先、まだ募集してるけど」

「あー、うん。考えとくよ」

「そっか、じゃあな」


そう言って大和はすぐにお店を出て行った。

取り残されると惨めな気がするから、俺は大和が帰ったのを確認すると、すぐに席を立つ。

余ったペーパータオルでテーブルを拭いてから席を後にしたのは、決してあいつに対抗しているからじゃない。