大和は「早くしろ」と言いたげにまた軽く鞄を当ててきやがったから、仕返しをしようと机の横に掛けている自分の鞄を投げ付けた。

けれど大和はそれをひらりと躱す。いや、そこは受け止めろよ。

教科書が詰まっている鞄を大人気無い力で投げ付けてしまったせいで、鞄は床に落ちた瞬間カーリングのストーンのように綺麗に滑っていった。

やばいと思ったところでもう遅い。

俺の鞄は狙ったようにジミズが座る隣の隣でぴたり止まった。


「やば……」


俺は咄嗟(とっさ)に鞄を救出しに行く。

ジミズは気付かなかったのか意図的に無視したのかわからないが、何一つ驚いた素振りを見せず、ぼうっと窓の外を眺めていた。

ジミズの机の上には大きなキャンパスノートが広げられていて、そこには竜のような架空の生き物が鉛筆で描かれていた。絵が上手いんだ、ジミズって。

そのまま無視してくれればよかったのに、ジミズの描いた絵を見入ってしまったせいで、目が合った。

一瞬、時が止まる。

見間違いだろうか。ジミズは泣いていなかった。

ただ、俺と目が合った途端、思い出したかのように突然涙を流し始めた。

なんだよ、それ。俺がいじめたみたいじゃんか。


「おい、(なぎ)。どうした?」

「何でもない。行こう」


大和の声でようやく我に返った俺は、その場を逃げるように教室を出る。

わからない。なんなんだ。

何で泣くんだよ、あいつ。