涙の理由は知らなくていい


「学校が始まったら、どうする?」

「どうするって?」


清水は筆を動かす手を止めて俺を見る。


「だって、ほら、俺達クラスで立ち位置悪いし」


あんまり目立たないようにした方がいいんじゃないか。

あえて最後までは言わなかったけど、清水は途中から理解したような表情をした。

しばらく考えてから、清水はまた筆を動かす。


「今までみたいな距離感がいいかな。その方が無難だよね」

「……そうだよな」


こうして意思統一しておけば、教室にいる時はお互いに無視することが認められる。何かあった時に助ける義務も生じない。俺達はそれぞれ自己防衛に励めば良い。

ちょっと寂しいけど、仕方がない。


「もし教室で瀬谷君が話しかけてきたら、私、泣いちゃうと思う」

「うん、話しかけないから安心して。やっぱり教室にいると、俺でも警戒してしまうよな」

「や、そうだけど、そうじゃなくて」


清水はまた手を止めてから、今度は俺の顔を見て笑った。


「嬉しくて」

「……あっそ」


俺は不意に顔を逸らす。

そんな顔をされたらさ、もっと好きになるじゃんか。

そんな顔で見られると、話しかけたくなるじゃんか。