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すっかり日が傾き、鮮やかな夕焼け色が、この部屋にも浸透し始める。背後から静かに襖が開く音が聞こえてくる。
「……瀬谷君?」
声のする方を向くと、申し訳程度に開かれた扉の隙間から清水の顔が覗いていた。
「清水さん、具合はどう?」
「もう大丈夫。ありがとう」
思ったより顔色が良さそうだ。
ほっとするのと同時に、また心臓の鼓動が早まって、かくつもりもないのに汗が吹き出た。
自然に涙が出るのって、こういう感じなんだろうか。なんて、何かと清水に紐づけようとする。
清水は襖を開けると、足元にあったサンダルを履いて俺のいるテーブルの向かいに立った。
体調が悪かったのに、彼女は椅子に座らず、いきなり俺に頭を下げた。
「迷惑かけてごめんなさい。手伝って欲しいって言ったのに、私がこんなんで……」
他人行儀のように深々と頭を下げる清水を見て、急に怖くなった。
イベントが終わると清水との関係も終わってしまう。
せっかく仲良くなれたのに、元のような関係に戻る。そう思った。
「いや、迷惑だなんて。そんなことこれっぽっちも思ってないって。俺も十分楽しめたし、清水さんのことが知れてよかった」
清水はきょとんとして俺を見ている。大きな瞳はちょっと不安そうで、でも真っ直ぐ俺の方に向いている。
相変わらず心臓の音がうるさい。
「頑張ってる清水さんがちょっと意外で、そんな一面も知れてよかったっていうか。あ、いや変な意味じゃなくてさ、勇気を貰った気がしたんだ。清水さんを見て、俺も頑張ろうって思えたんだ」
頭の中はもうぐちゃぐちゃで、励ましたいのか、ただ感想を言っているだけなのか自分でもよくわからない。
だけど、せめて必死さだけは届いて欲しい。
「だからさ。あの時、声をかけてくれてありがとう」
ようやく自分の中で探し求めていた言葉だとはっきりと実感する。
伝わったのかわからない。
「ずっと迷惑かな、悪いことしたかなって思ってて……でも、瀬谷君と一緒にいるのが楽しくて、だんだん後戻りができなくなってきて、でもやっぱり不安で、イベントのプレッシャーもあって寝られない日もずっと続いて……。
だから、そう言ってもらえて、ほんとに嬉しい……」
けれど清水も負けずに支離滅裂ながら必死に伝えようとしてくれた。



