「本当は、本人の口から聞くのが一番良いのかもしれないけど」
美安さんは清水のいる部屋を見てから、カウンターの近くにある席を案内してくれた。
飲食ブースは一足早く撤収作業が完了していたから、幸いこの部屋には誰もいない。
「ちょうど悠安が幼稚園に入る前に、私たちのお母さんは交通事故で亡くなったの」
いきなりボディブローを食らったような気分だ。やっぱり重めなのはきつい。
産み育ててくれた人間が亡くなる悲しみがどういうものなのか、俺にはわからない。
「すみません。辛いことを思い出させてしまって……」
「気にしないで。もう十年以上前の話だから」
美安さんは入念に俺の様子を確認してから話を続ける。
「あまりにも突然いなくなっちゃったから、その後一年くらいかな。突然悲しい感情が襲ってくるようになったの。突然泣きたくなったりとか」
人は大きな衝撃を受けると人格が歪んでしまうことがある。
しかも幼いほどその影響は大きく、下手をすれば今後の人生をも左右しかねない。誰かから聞いたのか本で読んだのかまでは覚えていないけれど、そう覚えている。
こんなにも気丈に見える美安さんも、しっかりと傷跡が残っているんだ。
「その時私は中学二年生で、学校では先生や友達が支えてくれたからなんとか立ち直ることができた。でも、悠安はまだ幼稚園に入る前でかなり小さくて、家族以外に頼れる人がいなかった。
なのに当時の私やお父さんは悠安を満足に支えてあげられなくて……。
それに、お母さんは体調を崩した悠安のために薬を買いに行く途中だったの。だから悠安は自分のせいでお母さんを事故に遭わせてしまったと思ってて」
「清水さんが泣いている時は、お母さんのことを思い出しているんでしょうか」
「わからない。でも、お母さんが亡くなってから、感情が揺れると自然と泣けてくるようになったのは間違いないと思う」
「美安さんは、治ると思いますか?」
美安さんの表情は曇ったままだった。
「悠安の症状はかなり重いから。でも、悠安が今の症状を克服したいと望んでいるのなら、私は少しでもあの子の力になってあげたい。あの時何もしてあげられなかったから、今はできる限りのことをしてあげたいって思ってる」
懸命に自分を奮い立たせようとしているその瞳は、妹の清水とよく似ている。
清水にとって美安さんはすごく大きな存在だと思う。
ちょっと鬱陶しそうにしていることもしばしばあるけれど、清水は美安さんを全面的に信用しているのは間違いない。



