涙の理由は知らなくていい




お昼前になると、ようやくイベントが始まった。

事前に駅や周辺地域の商業施設にポスターやチラシが配られていたのもあるのか、思っているよりも人が集まってきた。

やがて市場のような賑やかさになると、俺達の出店ブースに足を止める人が増えてきた。

けれど人が集まるにつれ、清水の顔は徐々にこわばってきていることに途中から気が付いた。


「大丈夫?」

「全然大丈夫じゃない……知らない人が多いと、ちょっと緊張する」


ちょっとじゃないけど。

高校生が二人で出店していること自体が珍しいのか、訪れる人はもれなく俺達に話しかけてくれた。

中には食器に書かれた絵を見て褒めてくれる人もいたが、清水は酸欠になった魚みたいに口をパクパクしているだけで、まともに受け答えなんてできやしなかった。

こうなることはわかっていた。いや、現時点で泣いていないだけでむしろ大躍進なのではないだろうか。

どうすれば清水の緊張を和らげることができるのだろう。

なんて思っていると、一番鉢合わせてはいけない人物が目の前を通りかかった。あのおじさんだった。

後ろには取り巻きと思われる町内会のおじさんが三人いる。

人を見かけで判断してはいけないなんて、そんなのはただの綺麗事だ。

見えてしまった。

この人の右肩には竜の刺青があった。俺の中でやばい人だと立てていたフラグが確信へと変わる。

全身が防衛本能を見せようとする。けれど、どうにかしておじさんをやり過ごさなければいけない。清水は絶対に耐えられない。睨まれたら死んじゃうだろ、清水。

「い、いらっしゃいませ……」

マジか。

そんなことを思っていたのに、清水は何を思ったのか、わざわざおじさんに声をかけた。