涙の理由は知らなくていい

設営が終わってから出展者のお兄さんが教えてくれた。

どうやらおじさんは昔蟹漁の漁師をしていたらしい。

今は引退してこの町に住んでおり、町長ではないけれどボス的な存在としてこの町を牛耳っている。

怒らせなければすごく頼りになる人だと言っていたけれど、それって扱いを間違えるとやばい人ってことじゃないのか。

他人の前では善人を(つくろ)っておいた方が良いのではとつくづく思う。


「瀬谷君、お待たせ」

「清水さん」


清水の顔を見たらなぜかほっとしたような気分になった。

目元はやっぱり赤く腫れているけど、心なしか清水の表情は溌剌としているようにも見える。


「さっき出展者さんの中にお姉ちゃんの友達がいたんだ」

「大丈夫だった?」

「うん、最初にお姉ちゃんが私の症状を説明してくれたから」

「それって……」

「うん。私も最初は変に気を遣われないか心配だった。でも、意外とみんな無反応っていうか、良い意味で他人事みたいに接してくれて、ちょっと楽になった」


清水は俺に笑顔を向ける。よく見ると頬には涙が伝った跡が残っている。

心配しすぎていたのだろうか。

いや、そうじゃない。

今回はたまたま清水のお姉さんの関係者だったからだ。

世の中には、他とは違うところを持つ人間を許容できない奴はたくさんいる。

クラスにいる大半の人間はそうだし、俺もそうだった。

……あれ?

いつから清水をの涙を許容するようになったんだろう。

いつから清水を清水として見るようになったんだろう。