涙の理由は知らなくていい

低めで威勢の良い声に呼び出された俺は、駆け足で設営部隊の輪の中へ入っていく。

おじさん連中の輪に混じり、テントの配置場所や設置方法のレクチャーを受ける。

テント自体の組み立て自体は小学校の時に何度か手伝ったことがあったから、大体の要領は知っていた。

家では母親からホームセンターで買ってきた本棚や机の組み立てを任されることもあって、何かを組み立てること自体は苦手でも嫌いでもない。

それに、イベント用のテントの組み立て作業が思った以上に重労働なのも知っている。

厄介なのは設置よりも撤去の方だ。天幕を綺麗に畳むのはコツがいるし、パイプの骨組みはまとめるとそれなりに重量がある。

行事が終わって疲れた状態でのテントの撤去作業はできればやりたくはない。

古物市に集まる人達は、出展者もお客さんも年配のおじさん達が圧倒的に多いけど、よく見ると出展者の中には美安さんと同じ年齢くらいの人もちらほらいる。

きょろきょろと辺りを見渡していると、誰かが俺の肩を叩いた。

振り返ると、テントの設営方法を説明していたあのおじさんだった。肩に乗ったままの手はガサガサで、そこから伸びる腕は俺の太ももくらいあるのではないかと思うほどの太さだ。

顔は彫が深くてかなりの強面で、目を合わせることすらできなかった。

本能的に身構える俺とは対照的に、おじさんはフランクに日焼けをしていない俺の肌を笑った。むかついたけどちょっとほっとしてもいる。

よく観察してみると、おじさんは基本的に冗談を言ったりよくわからないことを言って、それに周囲の人が賛同するかのように盛り上がっている。

気付くと俺もこの雰囲気にすっかり馴染んでしまったらしく、しんどいはずのテントの設営があっという間に終わってしまった。