日が暮れかけた頃、清水は急に糸が切れたように胡座をかいたまま伸びをし、そのまま後ろに倒れ込んだ。


「あーもうだめ。集中力切れちゃった」


だらしなく大の字で仰向けに寝転がって天井を眺めている清水は、仕事をやり遂げた職人のようでちょっと格好良い。


「なんか痒いと思ったら蚊に刺されちゃってるし」


おまけに遠慮なくボリボリと首筋を掻きむしってるし。


「ごめん。蚊が止まったの気付いてたけど、声かけられなかった」

「ええっ……叩いてよ。血がもったいないじゃん……」


後ろから首筋を叩くとか、そんなことをしたら泣き出すだろ。それに第一、いくら理由があっても、女子の首筋に触れるなんて、そんなこと俺にできるわけないだろ。


「あー痒い。これ絶対足が縞々の蚊だ」

藪蚊(やぶか)ね。掻くともっと痒くなるよ」


勢いに任せて首筋を掻きむしったせいで、清水の首筋は爪で引っ掻かれたように赤く爛れている。


「どうしたの?」

「あ、いや、痒そうだなって思って……」


言われて初めて自分が清水の首筋をまじまじと眺めていたことに気が付いた。

清水の作業も終わったところで、俺達は片付けを始める。

結局俺は清水が絵を描くところを隣でただ眺めていただけのような気がしたする。何もしていないのになぜか充足感も感じていて、そんな自分にちょっと引いてしまう。