俺も昔は清水と同じで左利きだった。

でも小学校に入る前に母に言われて矯正をした。

百貨店で化粧品を販売する仕事をしていた母は割と体裁を気にする人間で、食事の時の姿勢や歩き方など、あらゆる外面を気にする人間だった。

それに母はヒステリックになりがちで、俺のすることが気に食わないと、もともと高い声をさらに高めた動物のような奇声で俺を口撃した。

口うるさく俺を躾けるのは自分のためだろうと思うようになった頃に両親は離婚し、俺は何の迷いもなく父方についた。


「お姉さんと仲がいいんだね」

「うん。お姉ちゃんはちょっとうるさいけど、私の症状が解決するように一緒に考えてくれるから感謝してる。お母さんは私の症状を”個性”って言ってくれるけど、それじゃ解決にならない。

みんなと違うのはやっぱり目立つし、変な目で見られるのは辛い。私は少しでも症状が良くなるのなら、できるだけ頑張りたい」


涙の理由がわかれば、他人である俺達はそれを”個性”として受け入れることは簡単だ。

だから清水のお母さんの気持ちもわからなくはない。

でも、本人は戦おうとしている。戦おうとしている人間には、共に戦う意志を見せる方が良いに決まっている。美安さんはそんな清水をサポートするつもりなのだろう。


「清水さんの症状は昔からなの?」

「幼稚園の頃からびっくりした時とか、知らない人が来たらすぐ泣いていてたのを覚えてる」


理由を知った以上、涙は今の清水の状態を知る有効な手掛かりにもなる。

真剣に話す清水は泣いてはいない。俺の前でも清水は自然体でいるのだろうか。

ちょっと嬉しいって思ったけど、そんなことを口にしたら多分清水は怒り出す、いや、泣き出すだろう。

涙の理由を知ったら、俺の心は随分軽くなった。俺の中ではもう清水はただの清水でしかなくなった。