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その日から俺は放課後に市民センターに通うことになった。
と言っても、俺と清水はクラスでの立ち位置が悪いから、学校ではいつも通り別行動を徹底し、各自で市民センターに集合することにした。
連絡先を交換しなかったのは、俺達が仲良くしているのがクラス中に伝わらないようにという憂慮からではなく、ただ単に俺が連絡先を聞く勇気がなかったから。
訊かれればすぐに教えるのに、残念ながら清水からそんな気配は微塵も感じない。
市民センターの建物に入ると、事務カウンターにいる美安さんが俺に気付いた。
「瀬谷君、お疲れ様」
「こんにちは」
「悠安は奥の和室にいるよ。中で絵を描いてると思う」
「急に入っても大丈夫でしょうか」
「あいつ集中すると倒れるまでそこにいるから、むしろ入って生存確認してくれると助かる。あと、周りが見えなくなってるから、無視されても落ち込まないでね」
「わ、わかりました」
清水のことを熟知している人がいるのは本当に助かる。
俺が気兼ねなくここに訪れることができるのは、美安さんがいるからでもある。
「あ、瀬谷君。スイカ切ったから一緒に持って行って!」
「ありがとうございます」
カウンターの隅にある俺の背丈よりも大きい業務用冷倉庫の扉を開けると、丸々一個全部切り分けただろうという量のスイカが盛られているお盆があった。
お盆を持ち上げると、たっぷり水分を含んだ重みが伝わってきて、危うくはみ出した切れ端部分を落としてしまうところだった。
自分の腕は美安さんよりも華奢だったことに気が付いて、また少し自信が無くなった。年季の入ったこの漆塗りのお盆は、きっと空き家で回収したものだろう。
「この時期になると近所で畑をしているおっちゃんが差し入れで持ってきてくれるんだ。余ったらジュースにするから、食べ切れない分は持ってきてね」
そう言って美安さんは白い歯を俺に向ける。目元が清水とそっくりなのは、姉妹だから当たり前か。
その日から俺は放課後に市民センターに通うことになった。
と言っても、俺と清水はクラスでの立ち位置が悪いから、学校ではいつも通り別行動を徹底し、各自で市民センターに集合することにした。
連絡先を交換しなかったのは、俺達が仲良くしているのがクラス中に伝わらないようにという憂慮からではなく、ただ単に俺が連絡先を聞く勇気がなかったから。
訊かれればすぐに教えるのに、残念ながら清水からそんな気配は微塵も感じない。
市民センターの建物に入ると、事務カウンターにいる美安さんが俺に気付いた。
「瀬谷君、お疲れ様」
「こんにちは」
「悠安は奥の和室にいるよ。中で絵を描いてると思う」
「急に入っても大丈夫でしょうか」
「あいつ集中すると倒れるまでそこにいるから、むしろ入って生存確認してくれると助かる。あと、周りが見えなくなってるから、無視されても落ち込まないでね」
「わ、わかりました」
清水のことを熟知している人がいるのは本当に助かる。
俺が気兼ねなくここに訪れることができるのは、美安さんがいるからでもある。
「あ、瀬谷君。スイカ切ったから一緒に持って行って!」
「ありがとうございます」
カウンターの隅にある俺の背丈よりも大きい業務用冷倉庫の扉を開けると、丸々一個全部切り分けただろうという量のスイカが盛られているお盆があった。
お盆を持ち上げると、たっぷり水分を含んだ重みが伝わってきて、危うくはみ出した切れ端部分を落としてしまうところだった。
自分の腕は美安さんよりも華奢だったことに気が付いて、また少し自信が無くなった。年季の入ったこの漆塗りのお盆は、きっと空き家で回収したものだろう。
「この時期になると近所で畑をしているおっちゃんが差し入れで持ってきてくれるんだ。余ったらジュースにするから、食べ切れない分は持ってきてね」
そう言って美安さんは白い歯を俺に向ける。目元が清水とそっくりなのは、姉妹だから当たり前か。