「ほんと、お姉ちゃんは」
顔を真っ赤にしながら文句を言っているジミズは完全に機嫌が悪くなってしまったようだった。
けれど今のジミズは取り繕ってはおらず、至って自然に振る舞っているように見える。
「ごめんね。お姉ちゃんはいつもあんな調子なんだ」
「活発な人だね。ちょっと羨ましい」
「血が繋がってるはずのに、お姉ちゃんは私と性格が真逆なんだ。おまけにお姉ちゃんは普通だし」
美安さんはどこにでもいる明るめの大学生って感じがする。
明るくて活発で、おまけに美人。そういう人の周りには自然に人が寄って来るから大体人生を楽しめる。偏見かもしれないけど。
もし同じクラスにいれば、まず関わることはない俺達とは無縁の人間。そして美安さんはジミズのように普段から涙を流す変わった特徴を持ってはいない。
ジミズの言っている「普通の人間」は涙を流していない人のことを指す。
でも、なんていうか、失礼だとは思うが、俺は泣いているジミズがジミズだと思ってしまう。
「俺、清水さんも普通の人だと思うけど」
「いいよ、無理して言わなくても。無責任な励ましの言葉なんて、聞き飽きた」
抑揚無く放たれる言葉が、俺を刺す。
「ごめん」
咄嗟に出るのは自分を守るため。
「謝らないで。謝るのは、自分に非があるって認めた証拠だよ」
そう言い終えると、ジミズは再び目に涙を溜め始める。
そして涙はすぐにこぼれた。
「ごめんなさい……瀬谷君は何も悪くないのに」
ジミズは言いすぎたことを後悔した。
涙は負の感情を表現するためのもの。だとすれば、他人を傷つけてしまったことに対して申し訳ないという感情が涙となって現れている。