ジミズの水筒がなぜ凹んでいるのかを俺は知っている。

ジミズが席を離れた隙に誰かが水筒を落とした。それが故意だったのか事故だったのかはわからない。

ただ、水色の水筒は持ち主が席を離れた隙に、何度も落下していた。

俺が知っているだけでも三回。転がった先が悪いと蹴飛ばされていた可哀想な水筒は、ジミズに救出されるまで誰にも触れられなかった。

その場にいた全員が共犯者だと思う。もちろん俺もそれに含まれている。


「瀬谷くん、大丈夫?」

「え……?」

「怖い顔してる。ごめんね、本当にもう大丈夫だから」


ジミズはそう言って、再び目に涙を溜め出した。

……。

咳き込む前、ジミズは確かに泣いてなかった。でも、今は再び泣き出している。

薄々気付いていたけど、ジミズは泣かない時もある。教室で涙を流すのには何か理由があるんだ。

……あれ?

ひょっとして、ジミズは俺達と何も変わらないんじゃないのか。

教室の空気に馴染んではいないし、たまに嫌がらせを受けることもあるけれど、いつも自分の世界に入って絵に没頭しているクラスメイトの女の子。

授業中にも絵を描いているからたまに叱られていることもあるけれど。休み時間になるとめげずに没頭している意外と図太い奴。

なんだ、これ。

難しい問題を解いた時に感じる高揚感に似た感覚。

ジミズのことが少しわかっただけで、こんなにも嬉しくなるのは何でだろう。

この気持ちは、一体なんなんだ。

もっとジミズのことを知りたい。

そう思っていることは確かだ。

これ以上彼女を心配させないように精一杯笑ってみると、ジミズは目を細めて再び笑った。忙しい奴だ、ジミズは。