ジミズは鼻を啜りながら水筒のコップをきゅっと閉める。水筒の胴体は大きく凹んでいる。


「それって、ただの水?」

「経口補水液」

「なにそれ」

「体に吸収されやすい成分が入ってる飲み物。スポーツドリンクの親玉。美味しくないけど」

「病人とかが飲むやつだっけ」


何気なく言ったつもりだったのに、俺の言ったことが(しゃく)に触ったのか、ジミズは突然(ふく)れっ(つら)をして、


「私、病人じゃないよ」


と強めに言った。病気じゃないんだ。

そんな表情をされるとは思ってもみなくて、なぜかこっちが申し訳なく思えてきたから一応訂正をしておく。


「スポーツ選手とかも飲んでるって、どこかで聞いたことがある」

「瀬谷くん、運動部だっけ?」

「ううん。今は部活入ってない。中学の頃はバスケ部だったけどすぐやめた」

「一緒だね」


部活に入ってないことだろうか。いやジミズは確か美術部だったはず。じゃあ中学の時にバスケ部だったとか。

まさか。転べばすぐ骨折してしまいそうな細っそい腕をしているし、歩き方を見ているといかにも鈍臭そうにしか見えない。

ああ、そうか。部活をすぐに辞めたことが一緒なのか。多分それだ。

ジミズは鼻水が詰まったのか、また大きく鼻を啜った。

直後、喉に何かが引っかかったような、普通じゃない音を立ててから大きく咳き込んだ。