ジミズは俺の方を少し気にしながら商店街の通りを進んでいく。

途中でジミズは鞄の中からいつも使っている水色の水筒を取り出し、コップに透明な液体を注いで一口飲んだ。ごくりと音を立てながら動く喉が俺の視線を離さない。


「泣くと喉渇いちゃうんだよね」


俺の予想は当たっていた。


「やっぱり」


少しだけジミズの謎が解明できて安心したからか、俺の対人警戒フィルターは少しだけ薄まったようで、無意識に言葉が出てしまった。


「やっぱり?瀬谷くんもよく泣くの?」

「いや、そうじゃなくて、思い出したんだ」

「何を?」


ジミズの質問は止まらない。俺のことなんて知っても仕方がないだろうに。


「小学生に入る前、姉が肺炎になって入院したことがあったんだ。俺、今までずっと姉と一緒にいたから、いなくなったことに結構ショック受けてさ、夜ずっと泣いてた」


たった三日間だけの出来事だったのに、鮮明に覚えている。

俺は姉が一生戻ってこないような気がして、勝手に恐怖を作り出しては布団の中で啜り泣いていた。

心配した祖母は寝る前に急須と湯呑みを乗せたお盆を枕元に置いてくれ、泣き疲れた頃にそれを飲み干しようやく眠りに落ちた。


「泣くとさ、汗かくよりもずっと早く喉が渇くよな」


そう言ったところで、突然ジミズがくすくすと笑い出した。


「ちっちゃい頃の瀬谷くん、なんかかわいいね」


小動物のような高めの声を控えめに出すジミズを眺めていると、また胸の奥がむず(がゆ)くなる。笑っているのにジミズの細めた目からは涙が伝っていて、俺はどう反応すれば良いのかがわからない。