村にはすっかりと夜の帳が下りていた。
この村には文明の利器というものが存在しないようで、灯りといえば火か光の魔法くらいなのだとか。
村の中はかなり薄暗い。
人はもう家に籠り、ほとんど出歩くこともないようだ。
代わりにというか、夜空には満天の星々が輝いていた。
当たり前のことなのだが、月は夜空に存在していない。
代わりに目視できる大きな惑星がところどころまばらに見えた。
本当に、異世界なのだな。
そんな達観したような気持ちが胸に宿る。
この世界には科学の力は無くとも、魔法というものがまことしやかに存在する。
それはまるで夢のようで、私達のいた世界よりもずっと便利なのではないかと思う。
原理はまだよくは分からないが、いつでも火や光が出せるのだ。
他にも水や土、風といった自然現象を操ることが出来るとするのならば、これから旅をする上で格段に便利になるのではないだろうか。
私達も使うことが出来るのかは未だ不明だが、美奈が元気になり、状況が落ち着けばその辺の事も是非とも聞いてみたいと思った。
そんな事を考えつつ、私達はネムルさんと話をした後、明日について色々と準備をしていた。
魔物の巣窟。
今日遭遇したような魔物が棲みついている場所ということだ。
そんな場所に赴くなど、はっきり言って自殺行為だ。
だが美奈を救う手だてがそれしかないのであれば私達に選択肢はない。
美奈を助けるため、危険を承知で飛び込んでいく所存だ。
美奈の体を蝕んでいる毒は早ければ三日、遅くても五日程でその者の命を奪うという。
そうでなくともこんなに苦しそうな美奈の姿を目の当たりにして、私は常に落ち着かない心持ちで気が気では無かった。
いきなり突きつけられた死の宣告。
夢ならば覚めてほしい。
これが夢で無いというのならば、私達は命懸けの冒険を強いられる事になってしまった。まるで悪夢だ。
一体どうしてこんな事になってしまったのか。
私は自分のこんな運命に歯噛みし、それでも逃げ出したい気持ちを必死に圧し殺しつつ、半ば心ここに有らずな時を過ごしていった。

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私達は今晩は四人で先程のメリーさんの部屋に泊めてもらうことになった。
流石に男女別れるべきだと主張したのだが、椎名が笑顔で諭(さと)してくれた。

「一緒にいられる時間を大切にしないと」

そう言われてハッとなった。
こうなってしまった以上、誰もが常に死と隣り合わせ。
今が一緒の時間を過ごせる最後の刻かもしれないのだ。
私としても椎名にそう言ってもらえた以上、断る理由などもうなかった。
ネムルさんから話を受けた後、正直一刻も早く出発したいのは山々だった。
美奈を苦しみから一秒でも早く脱してやりたい。
だが冷静に考えて夜は視野も狭く、魔物も徘徊しやすい。
皆で話し合った結果、明日の朝早くに発とうという事になったのだ。
ネムルさんは私達にとても親切だった。
服や靴など、一通りの生活用品を用意してくれ、武器となる剣なども与えてくれた。
晩ごはんには野菜のシチューとパンをご馳走になった。
思えばこの世界に来て初めての食事。
質素ではあるが十分に心も身体も温かくなる美味しいものであった。
こんな時は豪奢なご馳走よりも、このように素朴で家庭的なものの方がよっぽど心が落ち着く。
空腹から解放されると人は思考が冷静になる。
穏やかな気持ちにもなれるものだ。
ネムルさんやこの村の人達の気遣いが本当に嬉しく感じられて、本当に胸が熱くなった。
流石に少々気が退けて、せめてネムルさん達にはお礼が出来ないかと思ってしまう。
考えた結果、昼間倒した魔物から出てきた魔石を渡すことを提案してみた。
するとどうやら。魔石には幾つか種類があって、魔法の道具の材料として使われたりもするらしく、お金にもなるらしいのだ。
直ぐ様私達は魔石を二つ共に渡そうとした。
だが思いの外高価な代物らしく、一つで充分だと断られてしまった。
あの様子だと魔石一つでも相当な価値があるようだ。
確かに魔石を手に入れるためには獰猛な魔物に立ち向かわなければならなくなる。
それは必然的に命懸けだ。
予想の範疇(はんちゅう)でしかないが、一月に一つ手に入れれば暮らしていけるぐらいの価値くらいないと割に合わないのではと思う。
もしこの状況を切り抜け、落ち着く事が出来ればその辺の事も詳しく聞いてみようとふと心の片隅に留めておくのだった。