「春休みに入る前、スマホを教室に忘れたから親友に昇降口で待っててもらったんだ。その間にチャラくて有名な先輩に絡まれちゃったみたいで、それをたまたまいた幼なじみが助けた。そのときに幼なじみは一目惚れして、親友に猛アタック」
笑っちゃいそう。わたしのいままでの努力はなんだったんだろう。なにが恋愛に興味ナシだ。わたしに興味がなかっただけじゃん。
「幼なじみに協力してって言われたときはつらかったけど、まだ大丈夫だって言い聞かせてた。協力している間は関われるし、恋愛を意識しているいまなら、わたしの気持ちに気づいてくれるんじゃないかって」
それもよくあるでしょ?
恋愛相談を受けていて、相談役と付き合うことになる。親友に一目惚れからの協力してほしいっていうお決まりのパターンがきたなら、相談しているうちに気持ちが変わるっていうこれまたお決まりになってもいいんじゃないかなって。だけど、そんなに人生は甘くなかった。わたしの人生だけ、甘くなかった。
「気持ちに気づいてもらおうっていう考えからだめだったんだよね。わたしが恋してるくせに、受け身だった。好きならちゃんと伝えるべきだった」
頑張り方を間違えていた。幼なじみだからいちばん近い存在だと勘違いしていた。これもテンプレすぎてむかつく。わたしの人生は、誰かがすでに経験して後悔したものをなぞっているだけ。なんてオリジナリティの欠片もない。ただバカなだけだ。
「いまになって、もっと頑張ればよかったって。気持ちだけでも伝えたらよかったって。親友と付き合ったって聞いたあとじゃ、もう言えないじゃん……」
親友のことも大好きだもん。高校生になってから知り合ったけど、もう心を許せる大切な友達。本当に素敵ないい子だから、わたしが男子なら付き合いたいって思った。それくらい素敵な友達。
「大好きな人と大好きな親友が付き合ったって、正直喜べないんだよ。そんな自分が嫌すぎて、醜くて、いちばんむかつく」
報告を受けたのはついさっきの昼休み。「おめでとう」って言うと、「ありがとう」っていままでされたことないのに、初めて頭を撫でられた。それが余計に虚しくて悲しくて、気がついたら授業に出ずにここにいた。大好きな人達の幸せを喜べない自分が、幸せになれるわけがなかった。全て、自業自得。だから死にたくなった。けど、覚悟なんて決まらなかった。結局、告白する勇気も、死ぬ勇気もない中途半端な人間だったんだ。自己嫌悪だけが膨らんで、ない覚悟を必死に考えていただけ。
「そうなんですね」
「うん。ごめんね、こんな話。これ、聞いてくれたお礼」
ブレザーのポケットから棒付きキャンディを出す。昔から好きで、食べたくなったときにすぐ食べれるようポケットに常備している。
「わたしはできなかったけどさ、大吾くんは後悔ないようにね」
手を伸ばして棒付きキャンディを受け取った大吾くんは、両手で大切そうに持つ。俯いているから顔は見えない。ちょっとお説教っぽかったかな?先輩風吹かしたイタいやつかも。
「もう二度と、こんな場所で会えないといいね」
というか、会ったらだめだよ。わたしもまだまだ気持ちの整理はついていない。でも、話を聞いてもらえて少しスッキリした。
「お互い、強く生きてこうね」
これ以上、弱い姿を見せられない。自分が絶望して自己嫌悪に陥るのは勝手にしろって感じだけど、まだ高校生になったばかりの初々しい彼は放っておけない。だから彼が、ここで飛び降りることを選ばなかっただけ、わたしが死にたくなってここに来た意味はあった。
立ち上がってスカートを手で払う。すごく驚いたけど、おかげでわたしはまだここにいる。