そしてコーヒーを奢ってくれた。

「ところでいつかのあれさ、ちゃんと撮れてたよ」
「何の話だ」
「君の犯行の瞬間だよ。だから脅しの材料としては有効だ」
「さすがにもう時効なんじゃないか」

そんなこともあったなあ。
あったというか、発端というか、元凶だよな。

「ずいぶん覇気がないね。不能にでもなったの」
「まあ似たようなもんだ。AVが撮れないんだよ」

俺は仕事の現状をかいつまんで説明した。

「…ふーん。いろいろあったんだな。
でも愚痴るのはみっともないぞ」
「まあね~」
「っていうかそろそろ戻ってきたらいいじゃん」
「?どこに」
「私の元に」
「うーん?」
「法律が足かせなんでしょ。
だったらアングラで撮って、アングラで上げればいい」

……

「そうかその手がある!お前天才か?」
「いや元々この形だったろ。
法律は気にしない。だって犯罪者だもの」
「だよな」

すっかり忘れてたわ。
俺としたことが実にうっかり。

「よしやるぞ。
せっかく一人前になったんだ、素人AVどもを蹴散らしてやる」
「その意気だAV部長」

こうして新たなステージが幕を開けたのだった。
俺が地下AVの王として君臨するようになるのはもうちょっと先の話。

「…そういやお前まだスリやってんの」
「あれはやめた。今は国際ロマンス詐欺、国際ロマンス詐欺部長だ」
「いや肩書きはいいけど」
「なんか流行ってるじゃん詐欺」
「そんな理由で?」
「いやいや、日本から外国にたくさんお金が流出しちゃってるから少しでも取り戻そうと思って」
「ヘンな奴。
えっ詐欺師を選んで標的に?」
「一般の人だよ」

それは江戸の敵を長崎で討つってやつだな。

「でもある種意識は高いというか、大義がないと言えないこともないか」
「何言ってんの。犯罪にきれいも汚いもないって」
「また真っ当なことを言うなよ」

(おわり)