あれから数年――
才能が開花した俺は新進気鋭のAV監督として業界で一目置かれる存在となっていた。

女性と男性で共通して楽しめる領域は多分に存在する。
1つの作品として両性をターゲットにした打ち出し方は可能だし、適宜一体化を進めることで業界全体を強くする、さらなる需要を掘り起こすことができると考えるまでになった。

だがそんなとき現れたのがあの法律だ。
AV出演被害防止・救済法…いわゆるAV新法である。

世界のルールが劇的に、一瞬にして書き換えられてしまった。

「冗談じゃないぞ、全然撮影ができないじゃないか。
なんとかコロナ禍に対処して飛躍していこうと皆結束してたのに…
いくら現場が気を吐いても運営が回らなきゃどうにもならんぞ」

やがて何もできず無為に過ごす日が続くようになった。

収入が激減した俺は、電車に揺られながら昔のことを思い出していた。
よく他人様の財布をスっては生活の足しにしたなあ。
…だいぶブランクがあるが今でも上手くやれるだろうか。

「そこのメガネ、なんだか物騒なことを考えているな」

不意に懐かしい声がした。

「お、お前は」
「私だ。久しぶりだな。
なかなか出世したそうじゃないか」

近所のマックにひとまず移動することにした。