うちは比較的貧しくて、かなり不安定な家庭だったと思う。
別に環境のせいにする気はないけれど。

生活の足しに始めたスリ稼業は、本業になったりすることはなく今でも生活の足しに行っている。
特にポリシーみたいなものはない。
あえて言うなら「行けたら行く」程度のラフさが賢明なんじゃないか。
「是が非でも行く」姿勢ではドジを踏む。

何なら手先云々より慎重さに自信を持っている節がある。
だからこそ撮られた上に盗られたのは衝撃的で、ひとまず指示を聞いてみてもいいと思った訳だ。

あれから数日――

「ひととおり見せてもらったよ」
「ああ」
「君のセンスのなさには絶望した」
「ダメか」

最初に提出したビデオはお気に召さなかったようだ。

「ちっとも心に響かない。もっとエロいことへの貪欲さを出さなきゃ」
「そう言われても。俺男のこと性的な目で見たことないんだけど」
「あのね、会社に入ったら全然興味のない部署に配属されることもある。
それでも自分なりに興味もつようにして客に売り込んだりするものなの」
「急に真っ当なことを言うなよ」

一体誰が言ってんだと。
組織のような物言いをしていたが、今のところこいつに仲間がいる気配はない。

「考えてみなさい。君は女湯の脱衣場の映像全般に興奮できるか」
「ん~ピンキリだな」
「そうだよ、要は漠然といっちゃダメってこと。
ビンビンにセンサー働かせてバシッと狙いを定める」
「しかしどうすればいい。イケメンだったら何でもいい感じか」
「やっぱり漠然としてる」

早くも行き詰まったぞ。

「いっそ直接男性と身体の関係をもって、意見を聞いて、ついでに隠し撮りしてみるとか」
「ん~俺家族でも人質にとられてるの」
「やればできる、っていうじゃない」
「やればの話な。
それならお前がやった方が早くない?」
「それならもう風俗とかで働いた方が早い気がする…」

違いない。

「しかしまあお前の言うとおりかもしれないな」
「え、男ひっかける気になった?」
「いや、まず自分なりに興味をもってみる。
男性の性的魅力とは何か、研究してみるよ」
「おおそれがいい。期待してるぞ部長」