そしてコーヒーを奢ってくれた。

「あらためて言うと、君の犯行の瞬間をビデオに収めたから今後は私の指示に従ってもらいたい」
「嫌だと言ったら」
「君は逮捕されるだろう」
「では指示を聞こう」

何にせよ聞いてから判断すればいい。

「ちなみにキャリアは長いの?」
「2年くらいか。腕は悪くないと思う」
「でも私に見つかっちゃったんだしこの際引退することを勧める」
「うーん?」

さっそく予想外の話が来た。

「更生しろって言いたいの」
「いや、私が別の悪事を始めるからそれを手伝ってほしい。
その方がお互い得になるはず」
「うーん?」
「知ってるか。本来潮時って言葉は『いいタイミング』のことをいうんだよ。
これは君にとって今の仕事をやめて新しい仕事を始める潮時ということだ」

めんどくさい話になりそうだぞ。

「で、壷でも売ればいいのか」
「いや、盗撮をやりたい。盗撮ビジネスだ」
「盗撮?なんかヨゴレだなあ」
「犯罪にきれいも汚いもない」
「それはそうだけど」
「元々は私がやろうと思ったの。
でもダメだ、警戒されすぎててリスクがでかい。女が女を撮るケースも結構あるのよ。
なぜだと思う」
「さあ~」

さっさと進めてください。

「市場がでかいからだ。売れると思うから撮るし、撮られると予測するから警戒する」
「なるほど」
「その点男はまだ撮られるという危機意識が低い。狙い目のブルーオーシャンと言えるだろう」
「えっ」
「男の裸を狙うハンターに、今君を任命する」
「ええ~」

さっさと逃げた方がよかったかもしれない…

「簡単な理屈だ。財布は盗られないように注意するから盗りにくい、女の裸も撮りにくい、男の裸は撮れる」
「財布だって盗れるぞ」
「私にバレたじゃないか」
「ぐ」
「これだけキャッシュレス化が進むとスっても現金が少なくて割がよくないでしょ。
君が引退すれば競合が1人減るし」
「同業かよ」
「君よりはちょっと腕がいい」
「ぬかせ」
「これを見たまえ」

そう言って奴は見覚えのあるスマホを取り出した。

「わー俺のスマホ!」
「腕は悪くないだろう」
「初めてお前のことすごいと思ったわ」
「まあそういうことだ。うちはちゃんとした反社じゃないからスマホとかカード抜いても換金できないのよ」
「ちゃんとした反社とは」
「だから盗撮事業でも始めようと思った矢先に異性の同業者を見つけて、とっさにカメラを回した訳」
「あー盗撮用のカメラがさっそく役立ったのか」
「カモネギだよねー」
「あんまりカモに対して言うことじゃない」

ちょっと判断力がマヒしてきたかもしれない。
全然興味は惹かないがなるほど確かにリスクは低そうだな。

「あ、一応ちゃんと撮れてるか確認する?」
「どうしよ、だるいな。じゃあ撮れてなかったら教えてくれ」
「よし、今日から君は盗撮部門の部長だ」
「よろしくなスリ部長」

こうして俺はスリから盗撮屋に転身した。

「…それにしてもメガネとはまたずいぶん安易な変装を」
「素だよ素!」