あの女に出会ったのは初夏のじめじめした日、一仕事終えて総武線の車両を降りた直後のことだった。

「そこのメガネ、ちょっと平和的に話したいことがある」

間抜けな話だが気づかれているとは思わなかった。
不審な人とは関わらない方がいい、小娘だし恥ずかしい病気をこじらせたままのケースもあり得る…くらいの認識だった。

「えっとね、君を裁く術を持ってるけどそれを使わない方向でいこうと言ってるんだけど」
「!」

即座に事の重大さを理解する。いや、まだ理解不十分だ。
お縄じゃないの?脅迫するってこと?
とりあえず逃げるのはよろしくない感じか。

「組織で?個人?」
「組織だったら組織って言うし、個人だとしても組織って言うよ」
「ああ、かしこいなお前」

ともかくだ、

「まあ聞こう。立ち話でいいのか」
「う~ん人に聞かれないように個室がいいのかな。でも知らない人と個室入るのは嫌だなあ」
「考えてなかったんだな」

案外ザコっぽいぞ。ちょっと希望が見えてきたかもしれない。
雑音があって移動もしやすそうなマックにひとまず移動することにした。