土曜日の午後一時半。
午前中に部活を終わらせた私は電車で揺られ続くこと約二時間。
人であふれかえっている東京駅にいた。
今日はなぜここに一人で来たのかというと・・・
「優笑ちゃーん!
久しぶりー!」
とある人が私に手を振りながら走ってきた。
「歩ちゃん!久しぶりー!」
そう。”ある人”とは歩ちゃんのことだ。
実はこの間のメッセージは歩ちゃんからのもので、いろいろあって今日会うことになったのだ。
歩ちゃんと会って何をするのかというと、私のあの相談に乗ってもらうためだ。
ちなみになぜメッセージ内ではなくわざわざ会って話すことになったかというと歩ちゃんがお互いの場所から
中間くらいに位置する東京駅に集合しておいしいものを一緒に食べたいという要望と直接会ったほうが話がしやすいのでは
ないかという考えを聞いたからだ。
「東京やっぱすごいね。周りに人しかいないもん。
私たち、こんなにすんなり会えてよかったね。」
「確かに。こんなに人がいると、東京駅に初めて来る私達が出会うこと自体が大変そうだもんね。」
「そうそう!」
「じゃあとりあえず駅から出る?」
「うん。そーしよ!」
そう言って駅から外に出た。
四月の東京は熱気のせいもあって暖かかった。
あらかじめどこのお店に行くのか考えてくれていた場所にスマホの地図を頼りに進んでいく。
「目的地に到着しました。案内を終了します。」
そういわれ目線をスマホの地図から正面のお店へと移す。
薄いエメラルドグリーンの色と薄い空色を混ぜたような色の壁がおしゃれな感じを出しているカフェだった。
ここに来る途中に聞いた歩ちゃんの話によるとここのパンケーキが有名でものすごくおいしいらしい。
お店の名前をみて本当にこのお店であっているか確認した後、私たちはお店の扉を開けた。
”チャリン”という音とともにドアを閉め外の空気が入ってこなくなったとたん、ラベンダーのにおいが鼻をかすめた。
「すっごいいい香り・・・!」
隣の歩ちゃんもそう口にしていた。
すると奥から店員さんが来た。
「いらっしゃいませ!二名様でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。」
そうして案内されたのは窓際に位置する席だった。
窓の外にはさっきまでのにぎやかな東京らしい雰囲気とはかけ離れたきれいな庭園のようなものが広がっていた。
「ここ、いろいろすごいね。めっちゃおしゃれだし!」
「でしょでしょ!いつか来てみたいなーって思ってたところなんだ!
一緒に来てくれてありがとね!」
「うん!こちらこそ連れてきてくれてありがとう!」
そんな会話の後、テーブルの上に置いてあるメニュー表を広げてみた。
そこにはパンケーキ以外にもフレンチトーストやパフェなど様々な文字が並んでいた。
だけど私も歩ちゃんも有名でものすごくおいしいらしいパンケーキが気になって頼んだ。
数分待ってパンケーキが運ばれてきた。
テーブルの上のパンケーキからは蜂蜜の甘いにおいが漂ってきた。
そして、横にあるアイスとお皿全体にうまく散りばめられているブルーベリーやラズベリーがそのパンケーキを
さらにおいしそうにさせていた。
「「いただきます」」
そうして口に入れたパンケーキは思わず笑みがこぼれるほどおいしかった。
おいしすぎて夢中になってほおばっていると歩ちゃんが
「優笑ちゃんが気に入ってくれたみたいでよかった!
ところで、相談ってなに?」
と言ってきた。
そうだ・・・!
私は思いっきりパンケーキに夢中になりすぎて一番重要なことを忘れていた。
「あっ!そうだったね!ごめんごめん。
あのさ、実は友達関係のことでいろいろあって・・・・・。」
と、クラス替えのこと、広瀬君のこと、そして広瀬君に言われて悩んでることなど歩ちゃんが転校した後のことを片っ端から
詳しく説明した。
歩ちゃんは
「なるほどね・・・。
そっかそっか。大変だったね。」
と言ってくれた。そして、
「私のことは信頼してくれているの?」
と聞いてきた。
「そんなのあたりまえ!めっちゃ信用してるよ!
だからこうやって出かけてるんだもん!」
「そしたらさ、この”誰かに聞いて、頼ってみる”の『誰か』を私にしたら・・・?
それじゃ、やだ?」
その言葉を聞いた途端、
「なるほど・・・!」
と、声が出るほど納得した。
「もちろん学校がもう別々だから直接そこに行って何かをしてあげるっていうのはできないんだけどね。
だから考えとかなら出すけど、それを実行することになったらその時は優笑ちゃん一人だけど大丈夫?」
「うん。実行させられるかはわからないけどさ、いざ実行するってなったら頑張るつもり!
だから大丈夫!」
と、答えた。
するとさっそく
「じゃあさ提案なんだけど・・・いい?」
と何かを考えてくれた。
「うん。全然いいよ!なに?」
「まずはさ、少し勇気がいると思うけどその広瀬君って子に優笑ちゃんの昔のこととか自分の気持ちとかもまとめて
全部いったん話してみたら?」
そう提案してくれた。 が、
「そうすることに何の意味だあるかわからないんだけど・・・さ、どういう事?」
と私は聞いた。
「それはさ、私の偏見でもあるんだけど、優笑ちゃんの話を聞いてみて多分今、学校で一番本当のことを話したときに納得して
仲間になってくれそうなのは広瀬君だけだと思うんだよね。」
「なんで?」
「だって、広瀬君はいままで優笑ちゃんの悪口いってなさそうじゃん?」
私は思い返してみた。
すると確かに広瀬君が私の悪口を一回も言っていないことに気が付いた。
でも・・・
「でもさ、私の知らないところで言いふらしてるかもよ?」
「うーん、確かにそうかもしれないね。
だけどそれは優笑ちゃんの勝手な想像なだけであって、本当は悪口を言ってないかもしれないよ?」
「それは・・・たしかに。」
「ね!だから、多分広瀬君は悪い人じゃないから自分の気持ちを話して、そのあと広瀬君にどうすればいいか聞いてみたら?
そしたらまた私に連絡してよ!
もしも広瀬君が優笑ちゃんの悪口言ってたらその時すぐに連絡ちょうだい!」
「わかった。」
「うん!」
「ありがと!」
「どういたしまして!
力になれてよかった!」
「うん!」
そうして私は残りのパンケーキを”パクパクッ”と食べた。
少し冷めてたけどいい感じにアイスの甘さと冷たさがパンケーキをおいしくさせていて、本当においしかった。
東京駅に戻ってきて、私たちは
「本当に今日は相談に乗ってくれてありがとう!」
「ううん!全然!こちらこそ一緒にカフェにパンケーキ食べに行ってくれてありがとう!」
「うん!」
「そしたら気をつけて帰ってね!」
「歩ちゃんも気を付けてね!」
「うん!」
「それじゃ、またね!」
「うん!また!」
と言葉を交わして、それぞれの電車のホームに向かって歩き出した。
家に帰るまでの間私は、頭の中でいつどこでどんな風に広瀬君と話すかを考えた。
私は自分のやるべきものは基本はやく終わらせたい派の人なので明日ささっと話したいと思った。
でも明日は部活が休み。
広瀬君と会うのは無理そうだ。
となると、月曜日がよさそうだ。
でも、どこで話そう・・・。
朝授業が始まるまでの間。は、広瀬君の登校時間がぎりぎりだから絶対厳しい。
昼休み、・・・ううん。周りに人がいるから絶対ダメだ。
部活の時間はそもそも時間がないし・・・
そのとき私は、広瀬君に下校中話しかけられたことを思いだし、そこで通学路が途中まで同じことに気が付いた。
下校中なら部活後になるから周りにほとんど人がいないし、時間にもゆとりが持てそうだからぴったりだ。
そうして私は月曜日の部活後の下校中に話すことにした。
電車の外は薄明るい空が広がっていた。
前まではもう真っ暗だったのになと思いながら私は外の景色をぼんやり眺めて時間をつぶした。
そして迎えた月曜日。
私は不安を抱えながら学校についた。
学校にはやっぱりまだ広瀬君は来ていなかった。
「学校、休むとかないよね・・・。」
私は気づかないうちにそんなことをつぶやいていた。
いつもはそもそも広瀬君のことすら考えていないのに、なんでだろ。
こんな風にいつも思ってないことを考えてしまうことがうっとうしくなって私は小説を読み始めた。
だけど・・・
「だめだ。全く頭に入ってこない。」
何行も読んではいるものの、目で見た情報を理解しようとせずそのまま頭の中を通り過ぎて行っていく。
こんな感じで、内容が全く入ってこなかった。
『なんでこんなにいつもと違うことしようとすると変に緊張しちゃうんだろうな、』
と窓の外をぼんやりと眺めた。
そうして、あっという間に放課後になった。
時間は、『ゆっくり進んでほしいな』と思うとはやく進み、『早く時間が過ぎてほしい』と思うとゆっくり進む。
本当に嫌なことだ。
朝は、”まだ時間あるから焦ったり変に怖がらなくても大丈夫”って自分に言い聞かせていたけど、もう放課後になると
朝みたいに”大丈夫”と自分に言い聞かせるような余裕がなくなっていた。
そしてあたふたして、余裕のなさが消えることなく過ごしている間に部活は終わってしまった。
「気を付けー、礼!」
「「「「「・・ありがとうございましたー」」」」」
というあいさつでみんな家に方向に散っていく。
いつもはここでサッと一番に帰るけど今日は広瀬君率いる男バレー部のミーティングが終わるまで待たなければいけない。
私はその待っている間、何回もこれからのことをシュミレーションして、本番失敗しないようにしようと考え、
どうすればいいか、頭の中でこの前の歩ちゃんと東京駅であった日の夜に送られてきた歩ちゃんからのメッセージを
思い出した。
「ピロン」
「・・・・・!歩ちゃんからだ」
私はそんな声を出して、スマホを手に取った。
そして歩ちゃんとのトーク画面を開くと
【優笑ちゃん、今日は本当にありがとう!
それで、おせっかいだったらごめんなんだけど広瀬君と話すときの例というか、ひとつの参考として、
こんな感じでやればいいんじゃないかって私なりに考えたからさ、少し困ったときにに見てみて!】
と送られてきていた。
そしてすぐに次のメッセージが届いた。
【・話しかけるとき
”ねね、今大丈夫?”といきなり本題に入らないように気を付けて、広瀬君に今時間があるかどうかを聞いてみる。
・広瀬君から「ある」ということを表す言葉が返ってきた場合
”あのさ、いきなり本題にはいると”・・・みたいに始めて、優笑ちゃんの昔のことを話し始めちゃう。
・「ちょっと難しいかも」みたいに「時間がないこと」を表す言葉が返ってきた場合
しっかり、「そっか、わかった!そしたら今度話せそうなとき教えて!」って感じに言う。
・最後言い終わったとき
「こういう事だったんだよね、最後まで聞いてくれてありがとう。」とお礼を必ずいう。
・広瀬君に”こうすればいいんじゃない?”みたいなことを言われたとき
焦らず冷静に「分かった、ありがとう!家に帰ってもう少し考えてみるね」っていう。
だいたいこんな感じかな!
ほんとになんか命令してるみたいな書き方になっちゃってごめんね、】
という内容だった。
だから・・・
広瀬君を見つけたら、
「広瀬君、久しぶり!急に話しかけてごめんね。
今ちょっと時間ある?」
って聞いて、
「うん、あるよ!なに?」
みたいに言われたら、私の過去の話とか終業式近くの日にされたこと、あと先生のこととかを話す。
で、言い終わったら
「こんなことがあったんだ、だからこの間はきつい言い方してごめん。
聞いてくれてありがとう。」
と、前逃げたことについて謝り、話を聞いてくれたことに対してお礼を言う。
もしも
「ごめん、これからちょっと予定入ってて厳しいかも、」
みたいに言われたら、
「わかった!むしろ私のほうこそ急に話しかけてごめん!」
としっかり話す。そして、
「今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。
次は絶対に逃げないから!」
っていって、話を今度できるようにする!
そして、話が一通り終わったら
「そしたらまた明日ね!」
と笑顔でいって広瀬君とわかれる。
・・・という感じでやればいいんだろう。
「うん、私にしてはいいシュミレーションができた気がする!
きっとうまくいく!
もし焦ったら歩ちゃんのメッセージを思いだして冷静になろう!
大丈夫、大丈夫・・・!」
そう一人で自分のことを精一杯励まして、手のひらに
『きっと大丈夫!』
と文字を指で書いて、その書いた文字を食べるふりをして少しだけ緊張を和らげた。
そして、気づくと男バレー部のミーティングはもう終わっていてみんなは、ばらけ始めていた。
私は急いで広瀬君が学校にいないことを確認して正門を通った。
そして、
『まだ男バレー部のほとんどの人が残っていたはずだから、きっと広瀬君もまだ近くにいるはず!』
と思い、通学路を走った。
少しだけ走っていると、広瀬君が見えてきた。
『あれが広瀬君でありますように・・・!』
そして走り続け私は前の人影が広瀬君であることを確認した。
運よく広瀬君が信号で止まったので私は一気に距離を詰め
「広瀬君、」
と呼んだ。
すると広瀬君の目線は動いた。
だけど私と目はあわなかった。
「お、萩原ー!
久しぶり!」
そう。
広瀬君の目線は少なくとも私のクラスではない人に向けられたのだ。
でも、そのあと私のほうに目線がいき、目と目が合った。
「・・・っ!!」
私は驚きすぎて、声が出なかった。
広瀬君は私の声も聞こえたのだろうか。
なにを言ったほうがいいのか困っていると、広瀬君は何も見ていないかのようにスッと目線を「萩原」と名前を
呼んでいた人のほうに戻ってしまった。
きっと、なにかほかのことがあってこっちに目線がいって、たまたま私と目が合っただけなのだろう。
なのに、”なにを言ったほうがいいのか”と勝手に困っていた自分を恥ずかしく思った。
そして私は本当は広瀬君とまだ通学路が同じだけれど、わざと別の道を走って進んだ。
せっかく勇気を出して話しかけて相談しようとするところまで行ったのに、うまくいかなかったことが悔しくて
泣いてしまった。
私は、泣き顔が見られたくなくて途中にあった公園に入っていき、ベンチがやや汚れているとかということを全く気にせずに
座りそのままずっと気が済むまで泣いた。
そして、私は泣き疲れ、家に帰ることにした。
空を見上げると、もう夕焼けのオレンジ色が夜の闇色にのまれ始めていた。
自分の部屋の明かりをつける。
全身鏡に顔をのぞかせると目が腫れていた。
「こんなに泣くなんて、ダサいよ。」
私は鏡に映る自分にそういって背を向けた。
でも、あんなに頑張ってシュミレーションして、自分がもう一度変わろうとする第一歩だったのにこんな風になってしまって
悔しかった。
そして私は部屋に転がっていたスマホを手に取り、歩ちゃんに電話した。
「プルルルル・・・プルルルル・・・」
ニコール、サンコールと呼び出し音が続き、
『またかけ直そうかな。』
と思ったとき、
「もしもし?電話に出るの遅くなってごめん。」
と声がした。
「歩ちゃん・・・!」
私は泣くつもりは全くなかったのに泣いてしまった。
「ど、どうしたの!?
何かあった?」
歩ちゃんは驚いたような心配するような声で電話の向こうから話してくれる。
「急に泣いたりしてごめん、
わたし・・・私さ・・・」
「優笑ちゃんのペースでゆっくり話していいよ?」
「うん、ありがとう。」
私は深呼吸をしてもう一度話し始めた。
「あのさ、私実は今日の放課後に広瀬君にあの事を話そうとしてたんだ。
だけど、話しかけようとして”広瀬君、”って呼んだら、ちょうどおんなじタイミングで広瀬君の友達がでてきて、
広瀬君はそっちに行っちゃって、話せなくて、勇気出したのにこんなことになって悔しくて・・・」
深呼吸した割にはカタコトなしゃべり方になってしまったが、歩ちゃんは
「そっか、そっか。
せっかく頑張ったのにうまくいかないと嫌な感じになるのは私も良くわかるよ。。
もしかして、優笑ちゃんのことだから、一回失敗してもう無理だなんて思ってるんじゃない?」
と、しっかり聞いて話してくれた。
私は、”もう無理だなんて思ってるんじゃない?”と言われてはっとした。
だって、悔しいと思いながらも同時にやっぱり一度”もう関わらないで”みたいなことを言っちゃったから話しかけても
聞いてくれないだろうって心のどこかで思ってたから。
だから、白状した。
「うん。そうかもしれない。
きっと話しかけてもどうせ・・・みたいに思ってた。」
「やっぱりか。優笑ちゃんのことだからそうなんじゃないかって思ってたよ。
でも、本当にそう思って、そんな簡単に諦めちゃうの?
もっと頑張ってみたら?
広瀬君にも、”もう一回違う方法で頑張ってみたら?”みたいなこと言われたんじゃないの?」
「・・・そうだね、そんなこと言われた。
でも、次もまた何かが起きて話せなかったらどうすればいいの?」
「そしたらその時は私が優笑ちゃんのこと支えて、電話越しになっちゃうけど話聞くよ!」
「そっか、そっかそっか、
私歩ちゃんっていう味方がいるんだね。
そんな味方が支えてくれてるって思ったらもう一回頑張れるかも。」
「味方がいるって・・・、
いままでも、これからも変わらないことだよ?」
「そうだね、そんなことを忘れちゃってごめん。」
「うん。
これからもしっかり覚えておいてね!」
「分かった。」
「よし!
それじゃ、もう一回頑張って話せそうだね・・・?」
「うん。話せそう!
話、聞いてくれてありがとう。」
「うん。こちらこそ!
優笑ちゃんが頑張っているなら私も何か頑張らないとだね!
気合い入れてくれてありがとう!」
歩ちゃんがそんなことを急に言ったから私たちは笑った。
お腹を抱えて笑った。
周りから見たら、全く面白くないと思うと私でさえ思ったけど、今はなぜか面白かった。
そんな笑いと一緒に、
”もう一回広瀬君と話すことはできないかもしれない”という思いは飛んで行った。
午前中に部活を終わらせた私は電車で揺られ続くこと約二時間。
人であふれかえっている東京駅にいた。
今日はなぜここに一人で来たのかというと・・・
「優笑ちゃーん!
久しぶりー!」
とある人が私に手を振りながら走ってきた。
「歩ちゃん!久しぶりー!」
そう。”ある人”とは歩ちゃんのことだ。
実はこの間のメッセージは歩ちゃんからのもので、いろいろあって今日会うことになったのだ。
歩ちゃんと会って何をするのかというと、私のあの相談に乗ってもらうためだ。
ちなみになぜメッセージ内ではなくわざわざ会って話すことになったかというと歩ちゃんがお互いの場所から
中間くらいに位置する東京駅に集合しておいしいものを一緒に食べたいという要望と直接会ったほうが話がしやすいのでは
ないかという考えを聞いたからだ。
「東京やっぱすごいね。周りに人しかいないもん。
私たち、こんなにすんなり会えてよかったね。」
「確かに。こんなに人がいると、東京駅に初めて来る私達が出会うこと自体が大変そうだもんね。」
「そうそう!」
「じゃあとりあえず駅から出る?」
「うん。そーしよ!」
そう言って駅から外に出た。
四月の東京は熱気のせいもあって暖かかった。
あらかじめどこのお店に行くのか考えてくれていた場所にスマホの地図を頼りに進んでいく。
「目的地に到着しました。案内を終了します。」
そういわれ目線をスマホの地図から正面のお店へと移す。
薄いエメラルドグリーンの色と薄い空色を混ぜたような色の壁がおしゃれな感じを出しているカフェだった。
ここに来る途中に聞いた歩ちゃんの話によるとここのパンケーキが有名でものすごくおいしいらしい。
お店の名前をみて本当にこのお店であっているか確認した後、私たちはお店の扉を開けた。
”チャリン”という音とともにドアを閉め外の空気が入ってこなくなったとたん、ラベンダーのにおいが鼻をかすめた。
「すっごいいい香り・・・!」
隣の歩ちゃんもそう口にしていた。
すると奥から店員さんが来た。
「いらっしゃいませ!二名様でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。」
そうして案内されたのは窓際に位置する席だった。
窓の外にはさっきまでのにぎやかな東京らしい雰囲気とはかけ離れたきれいな庭園のようなものが広がっていた。
「ここ、いろいろすごいね。めっちゃおしゃれだし!」
「でしょでしょ!いつか来てみたいなーって思ってたところなんだ!
一緒に来てくれてありがとね!」
「うん!こちらこそ連れてきてくれてありがとう!」
そんな会話の後、テーブルの上に置いてあるメニュー表を広げてみた。
そこにはパンケーキ以外にもフレンチトーストやパフェなど様々な文字が並んでいた。
だけど私も歩ちゃんも有名でものすごくおいしいらしいパンケーキが気になって頼んだ。
数分待ってパンケーキが運ばれてきた。
テーブルの上のパンケーキからは蜂蜜の甘いにおいが漂ってきた。
そして、横にあるアイスとお皿全体にうまく散りばめられているブルーベリーやラズベリーがそのパンケーキを
さらにおいしそうにさせていた。
「「いただきます」」
そうして口に入れたパンケーキは思わず笑みがこぼれるほどおいしかった。
おいしすぎて夢中になってほおばっていると歩ちゃんが
「優笑ちゃんが気に入ってくれたみたいでよかった!
ところで、相談ってなに?」
と言ってきた。
そうだ・・・!
私は思いっきりパンケーキに夢中になりすぎて一番重要なことを忘れていた。
「あっ!そうだったね!ごめんごめん。
あのさ、実は友達関係のことでいろいろあって・・・・・。」
と、クラス替えのこと、広瀬君のこと、そして広瀬君に言われて悩んでることなど歩ちゃんが転校した後のことを片っ端から
詳しく説明した。
歩ちゃんは
「なるほどね・・・。
そっかそっか。大変だったね。」
と言ってくれた。そして、
「私のことは信頼してくれているの?」
と聞いてきた。
「そんなのあたりまえ!めっちゃ信用してるよ!
だからこうやって出かけてるんだもん!」
「そしたらさ、この”誰かに聞いて、頼ってみる”の『誰か』を私にしたら・・・?
それじゃ、やだ?」
その言葉を聞いた途端、
「なるほど・・・!」
と、声が出るほど納得した。
「もちろん学校がもう別々だから直接そこに行って何かをしてあげるっていうのはできないんだけどね。
だから考えとかなら出すけど、それを実行することになったらその時は優笑ちゃん一人だけど大丈夫?」
「うん。実行させられるかはわからないけどさ、いざ実行するってなったら頑張るつもり!
だから大丈夫!」
と、答えた。
するとさっそく
「じゃあさ提案なんだけど・・・いい?」
と何かを考えてくれた。
「うん。全然いいよ!なに?」
「まずはさ、少し勇気がいると思うけどその広瀬君って子に優笑ちゃんの昔のこととか自分の気持ちとかもまとめて
全部いったん話してみたら?」
そう提案してくれた。 が、
「そうすることに何の意味だあるかわからないんだけど・・・さ、どういう事?」
と私は聞いた。
「それはさ、私の偏見でもあるんだけど、優笑ちゃんの話を聞いてみて多分今、学校で一番本当のことを話したときに納得して
仲間になってくれそうなのは広瀬君だけだと思うんだよね。」
「なんで?」
「だって、広瀬君はいままで優笑ちゃんの悪口いってなさそうじゃん?」
私は思い返してみた。
すると確かに広瀬君が私の悪口を一回も言っていないことに気が付いた。
でも・・・
「でもさ、私の知らないところで言いふらしてるかもよ?」
「うーん、確かにそうかもしれないね。
だけどそれは優笑ちゃんの勝手な想像なだけであって、本当は悪口を言ってないかもしれないよ?」
「それは・・・たしかに。」
「ね!だから、多分広瀬君は悪い人じゃないから自分の気持ちを話して、そのあと広瀬君にどうすればいいか聞いてみたら?
そしたらまた私に連絡してよ!
もしも広瀬君が優笑ちゃんの悪口言ってたらその時すぐに連絡ちょうだい!」
「わかった。」
「うん!」
「ありがと!」
「どういたしまして!
力になれてよかった!」
「うん!」
そうして私は残りのパンケーキを”パクパクッ”と食べた。
少し冷めてたけどいい感じにアイスの甘さと冷たさがパンケーキをおいしくさせていて、本当においしかった。
東京駅に戻ってきて、私たちは
「本当に今日は相談に乗ってくれてありがとう!」
「ううん!全然!こちらこそ一緒にカフェにパンケーキ食べに行ってくれてありがとう!」
「うん!」
「そしたら気をつけて帰ってね!」
「歩ちゃんも気を付けてね!」
「うん!」
「それじゃ、またね!」
「うん!また!」
と言葉を交わして、それぞれの電車のホームに向かって歩き出した。
家に帰るまでの間私は、頭の中でいつどこでどんな風に広瀬君と話すかを考えた。
私は自分のやるべきものは基本はやく終わらせたい派の人なので明日ささっと話したいと思った。
でも明日は部活が休み。
広瀬君と会うのは無理そうだ。
となると、月曜日がよさそうだ。
でも、どこで話そう・・・。
朝授業が始まるまでの間。は、広瀬君の登校時間がぎりぎりだから絶対厳しい。
昼休み、・・・ううん。周りに人がいるから絶対ダメだ。
部活の時間はそもそも時間がないし・・・
そのとき私は、広瀬君に下校中話しかけられたことを思いだし、そこで通学路が途中まで同じことに気が付いた。
下校中なら部活後になるから周りにほとんど人がいないし、時間にもゆとりが持てそうだからぴったりだ。
そうして私は月曜日の部活後の下校中に話すことにした。
電車の外は薄明るい空が広がっていた。
前まではもう真っ暗だったのになと思いながら私は外の景色をぼんやり眺めて時間をつぶした。
そして迎えた月曜日。
私は不安を抱えながら学校についた。
学校にはやっぱりまだ広瀬君は来ていなかった。
「学校、休むとかないよね・・・。」
私は気づかないうちにそんなことをつぶやいていた。
いつもはそもそも広瀬君のことすら考えていないのに、なんでだろ。
こんな風にいつも思ってないことを考えてしまうことがうっとうしくなって私は小説を読み始めた。
だけど・・・
「だめだ。全く頭に入ってこない。」
何行も読んではいるものの、目で見た情報を理解しようとせずそのまま頭の中を通り過ぎて行っていく。
こんな感じで、内容が全く入ってこなかった。
『なんでこんなにいつもと違うことしようとすると変に緊張しちゃうんだろうな、』
と窓の外をぼんやりと眺めた。
そうして、あっという間に放課後になった。
時間は、『ゆっくり進んでほしいな』と思うとはやく進み、『早く時間が過ぎてほしい』と思うとゆっくり進む。
本当に嫌なことだ。
朝は、”まだ時間あるから焦ったり変に怖がらなくても大丈夫”って自分に言い聞かせていたけど、もう放課後になると
朝みたいに”大丈夫”と自分に言い聞かせるような余裕がなくなっていた。
そしてあたふたして、余裕のなさが消えることなく過ごしている間に部活は終わってしまった。
「気を付けー、礼!」
「「「「「・・ありがとうございましたー」」」」」
というあいさつでみんな家に方向に散っていく。
いつもはここでサッと一番に帰るけど今日は広瀬君率いる男バレー部のミーティングが終わるまで待たなければいけない。
私はその待っている間、何回もこれからのことをシュミレーションして、本番失敗しないようにしようと考え、
どうすればいいか、頭の中でこの前の歩ちゃんと東京駅であった日の夜に送られてきた歩ちゃんからのメッセージを
思い出した。
「ピロン」
「・・・・・!歩ちゃんからだ」
私はそんな声を出して、スマホを手に取った。
そして歩ちゃんとのトーク画面を開くと
【優笑ちゃん、今日は本当にありがとう!
それで、おせっかいだったらごめんなんだけど広瀬君と話すときの例というか、ひとつの参考として、
こんな感じでやればいいんじゃないかって私なりに考えたからさ、少し困ったときにに見てみて!】
と送られてきていた。
そしてすぐに次のメッセージが届いた。
【・話しかけるとき
”ねね、今大丈夫?”といきなり本題に入らないように気を付けて、広瀬君に今時間があるかどうかを聞いてみる。
・広瀬君から「ある」ということを表す言葉が返ってきた場合
”あのさ、いきなり本題にはいると”・・・みたいに始めて、優笑ちゃんの昔のことを話し始めちゃう。
・「ちょっと難しいかも」みたいに「時間がないこと」を表す言葉が返ってきた場合
しっかり、「そっか、わかった!そしたら今度話せそうなとき教えて!」って感じに言う。
・最後言い終わったとき
「こういう事だったんだよね、最後まで聞いてくれてありがとう。」とお礼を必ずいう。
・広瀬君に”こうすればいいんじゃない?”みたいなことを言われたとき
焦らず冷静に「分かった、ありがとう!家に帰ってもう少し考えてみるね」っていう。
だいたいこんな感じかな!
ほんとになんか命令してるみたいな書き方になっちゃってごめんね、】
という内容だった。
だから・・・
広瀬君を見つけたら、
「広瀬君、久しぶり!急に話しかけてごめんね。
今ちょっと時間ある?」
って聞いて、
「うん、あるよ!なに?」
みたいに言われたら、私の過去の話とか終業式近くの日にされたこと、あと先生のこととかを話す。
で、言い終わったら
「こんなことがあったんだ、だからこの間はきつい言い方してごめん。
聞いてくれてありがとう。」
と、前逃げたことについて謝り、話を聞いてくれたことに対してお礼を言う。
もしも
「ごめん、これからちょっと予定入ってて厳しいかも、」
みたいに言われたら、
「わかった!むしろ私のほうこそ急に話しかけてごめん!」
としっかり話す。そして、
「今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。
次は絶対に逃げないから!」
っていって、話を今度できるようにする!
そして、話が一通り終わったら
「そしたらまた明日ね!」
と笑顔でいって広瀬君とわかれる。
・・・という感じでやればいいんだろう。
「うん、私にしてはいいシュミレーションができた気がする!
きっとうまくいく!
もし焦ったら歩ちゃんのメッセージを思いだして冷静になろう!
大丈夫、大丈夫・・・!」
そう一人で自分のことを精一杯励まして、手のひらに
『きっと大丈夫!』
と文字を指で書いて、その書いた文字を食べるふりをして少しだけ緊張を和らげた。
そして、気づくと男バレー部のミーティングはもう終わっていてみんなは、ばらけ始めていた。
私は急いで広瀬君が学校にいないことを確認して正門を通った。
そして、
『まだ男バレー部のほとんどの人が残っていたはずだから、きっと広瀬君もまだ近くにいるはず!』
と思い、通学路を走った。
少しだけ走っていると、広瀬君が見えてきた。
『あれが広瀬君でありますように・・・!』
そして走り続け私は前の人影が広瀬君であることを確認した。
運よく広瀬君が信号で止まったので私は一気に距離を詰め
「広瀬君、」
と呼んだ。
すると広瀬君の目線は動いた。
だけど私と目はあわなかった。
「お、萩原ー!
久しぶり!」
そう。
広瀬君の目線は少なくとも私のクラスではない人に向けられたのだ。
でも、そのあと私のほうに目線がいき、目と目が合った。
「・・・っ!!」
私は驚きすぎて、声が出なかった。
広瀬君は私の声も聞こえたのだろうか。
なにを言ったほうがいいのか困っていると、広瀬君は何も見ていないかのようにスッと目線を「萩原」と名前を
呼んでいた人のほうに戻ってしまった。
きっと、なにかほかのことがあってこっちに目線がいって、たまたま私と目が合っただけなのだろう。
なのに、”なにを言ったほうがいいのか”と勝手に困っていた自分を恥ずかしく思った。
そして私は本当は広瀬君とまだ通学路が同じだけれど、わざと別の道を走って進んだ。
せっかく勇気を出して話しかけて相談しようとするところまで行ったのに、うまくいかなかったことが悔しくて
泣いてしまった。
私は、泣き顔が見られたくなくて途中にあった公園に入っていき、ベンチがやや汚れているとかということを全く気にせずに
座りそのままずっと気が済むまで泣いた。
そして、私は泣き疲れ、家に帰ることにした。
空を見上げると、もう夕焼けのオレンジ色が夜の闇色にのまれ始めていた。
自分の部屋の明かりをつける。
全身鏡に顔をのぞかせると目が腫れていた。
「こんなに泣くなんて、ダサいよ。」
私は鏡に映る自分にそういって背を向けた。
でも、あんなに頑張ってシュミレーションして、自分がもう一度変わろうとする第一歩だったのにこんな風になってしまって
悔しかった。
そして私は部屋に転がっていたスマホを手に取り、歩ちゃんに電話した。
「プルルルル・・・プルルルル・・・」
ニコール、サンコールと呼び出し音が続き、
『またかけ直そうかな。』
と思ったとき、
「もしもし?電話に出るの遅くなってごめん。」
と声がした。
「歩ちゃん・・・!」
私は泣くつもりは全くなかったのに泣いてしまった。
「ど、どうしたの!?
何かあった?」
歩ちゃんは驚いたような心配するような声で電話の向こうから話してくれる。
「急に泣いたりしてごめん、
わたし・・・私さ・・・」
「優笑ちゃんのペースでゆっくり話していいよ?」
「うん、ありがとう。」
私は深呼吸をしてもう一度話し始めた。
「あのさ、私実は今日の放課後に広瀬君にあの事を話そうとしてたんだ。
だけど、話しかけようとして”広瀬君、”って呼んだら、ちょうどおんなじタイミングで広瀬君の友達がでてきて、
広瀬君はそっちに行っちゃって、話せなくて、勇気出したのにこんなことになって悔しくて・・・」
深呼吸した割にはカタコトなしゃべり方になってしまったが、歩ちゃんは
「そっか、そっか。
せっかく頑張ったのにうまくいかないと嫌な感じになるのは私も良くわかるよ。。
もしかして、優笑ちゃんのことだから、一回失敗してもう無理だなんて思ってるんじゃない?」
と、しっかり聞いて話してくれた。
私は、”もう無理だなんて思ってるんじゃない?”と言われてはっとした。
だって、悔しいと思いながらも同時にやっぱり一度”もう関わらないで”みたいなことを言っちゃったから話しかけても
聞いてくれないだろうって心のどこかで思ってたから。
だから、白状した。
「うん。そうかもしれない。
きっと話しかけてもどうせ・・・みたいに思ってた。」
「やっぱりか。優笑ちゃんのことだからそうなんじゃないかって思ってたよ。
でも、本当にそう思って、そんな簡単に諦めちゃうの?
もっと頑張ってみたら?
広瀬君にも、”もう一回違う方法で頑張ってみたら?”みたいなこと言われたんじゃないの?」
「・・・そうだね、そんなこと言われた。
でも、次もまた何かが起きて話せなかったらどうすればいいの?」
「そしたらその時は私が優笑ちゃんのこと支えて、電話越しになっちゃうけど話聞くよ!」
「そっか、そっかそっか、
私歩ちゃんっていう味方がいるんだね。
そんな味方が支えてくれてるって思ったらもう一回頑張れるかも。」
「味方がいるって・・・、
いままでも、これからも変わらないことだよ?」
「そうだね、そんなことを忘れちゃってごめん。」
「うん。
これからもしっかり覚えておいてね!」
「分かった。」
「よし!
それじゃ、もう一回頑張って話せそうだね・・・?」
「うん。話せそう!
話、聞いてくれてありがとう。」
「うん。こちらこそ!
優笑ちゃんが頑張っているなら私も何か頑張らないとだね!
気合い入れてくれてありがとう!」
歩ちゃんがそんなことを急に言ったから私たちは笑った。
お腹を抱えて笑った。
周りから見たら、全く面白くないと思うと私でさえ思ったけど、今はなぜか面白かった。
そんな笑いと一緒に、
”もう一回広瀬君と話すことはできないかもしれない”という思いは飛んで行った。