「通知表、ドキドキするね。」
「だよね、、いい成績でありますように!」
そう歩ちゃんと話している。
今日は、進級前最後の登校日。
修了式と通知表の配布がある大事な日。
私の学校は、”通知表”というものが配られる。
通知表は、配られない学校もある。
だから私は今『”通知表”というもの』といった。
これは、一応説明すると前期と後期の最後に配られる、副教科を含めた全科目の成績の一覧表みたいなものだ。
それには先生のコメントもここの中学は書いてくれているし、出席数や受賞したコンクールの名前なども載っている。
そして、ここら辺の高校はこの通知表の成績を見て入試の時、テストと面接にプラスで点数をつける。
そして受験の合否が決まる。
そんなことがこの市では行われていて、最近では、この市以外のところでもほとんどの中学校が通知表を出していて、
ほとんどの高校が通知表を受験に取り入れている。
ということもあり、私たちにとっては一、二年後の自分に影響するため、ものすごく必死なのだ。
「次、優笑ー。」
「はいっ。」
そんな返事をして廊下に向かった。
先生の座っている前に立ち、
「今年一年、お世話になりました。」
そう言って、始まった。
「おう。優笑。今年はありがとな。
優笑は成績、信頼ともに良い評価だぞ。
頑張ったな、お疲れ様。
ただ、一つあるとしたら、この間のいじめの件だな。
あれも真相が先生もわからなくなってきたから、何かあればまた先生のところに来て教えてくれ。
先生も場合によっては優笑のことを怒ることもあるかもしれないが、優笑の味方でもあるんだから何かあったかいってな。」
「はい。分かりました。
本当にありがとうございました。
来年もお世話になることがあればよろしくお願いします。」
「あぁ、よろしくな。」
そういって、握手をして終わった。
自分の席に戻る前に後ろで通知表の中身を確認した。
今年は前期含めて、いい成績だった。
でも、いまだにクラスの人とはうまくいっていない。
「本当にこれで良いのかな・・・。」
私は、成績表が良くても人間関係はこれから生きていく中でうまくやっていかなければならない、大切なこと。
だけど、今の私は全然うまく関係を築けていない。
それは少し、どうなのかなと思った。
二匹オオカミ。
その名のまま、ここまで来た。
でも、ずっとこのまま過ごしていくわけにはいかない。
二年生。
後輩ができる。
私は、うまくやっていけるのだろうか。
あの小学生の時と最近の緑ちゃん達の件から人にどう思われ、どんな風にみられているのか不安で、
気持ちが切り換えられていたとしても、本当の私、内側の私は変われていない。
でも、歩ちゃんとなら。
歩ちゃんがいてくれたら。
私は少しずつ変わっていけるかもしれない。
私も歩ちゃんのことを支えてあげたりして頑張っていけばどうにかなっていける。
そういう風に心の中で『頑張ろう。』と気合を入れて席に戻った。
「優笑、成績どう?よかった?いい感じだった?」
「うん。今回も前期同様、いい感じ!」
「よかったじゃん!
いいなー!私これからだから不安だよー、」
「歩ちゃんは絶対大丈夫だよ!」
「そうかな・・・?
でもなんか少し自信が出てきたかも!」
「次、水島ー」
「あ、先生に呼ばれた!
行ってくるね!」
「うん!いってらしゃい!」
そういって歩ちゃんは廊下に行った。
歩ちゃんはしっかりしてて、強くてかっこよくて、だけどかわいくて、そんな子はきっと先生も評価してくれるだろう。
そう考えて、歩ちゃんの成績がいいことを願いながら歩ちゃんが返ってくるのを待った。
「優笑ちゃん!今回、私もいい感じだった!
よかったー!」
そんな声とともに歩ちゃんが戻ってきた。
「え!ほんと⁉
やったぁ!よかったじゃん!」
「一緒に喜んでくれてありがと!」
「うん!お互いいい成績で安心だね!」
そう言葉を交わしてお互い一安心した。
そして次は修了式に入った。
すると歩ちゃんは
「表彰されるから、放送室行ってくる!
またね!」
と言って、私の言葉を待たないで”タタタッ”と放送室に行ってしまった。
「あ、うん。いってらしゃい!」
もういない歩ちゃんに向けて私は声を出し、そして自分の席に座り、修了式が始まるのを待った。
『開式の言葉』
『はい。』
そういう言葉で修了式が始まった。
しばらくして、
『表彰式に移ります。』
という言葉が聞こえた。
・・・そういえば、歩ちゃんは
『表彰されるから』
と言っていた。
つまり歩ちゃんが出るということだ。
私は
『歩ちゃんは何で表彰されるんだろう』
そう、ワクワクしながら放送室で行われている修了式の映像をクラスのテレビの画面から見つめていた。
でも・・・歩ちゃんはいくら待っても表彰されなかった。
そして
『これで表彰式を終わります。』
という声で終わってしまった。
歩ちゃんはなぜ映らなかったのだろうか。
どうして放送室に行ったのだろうか。
そんな疑問が次から次へと浮かんできた。
そして、
『転校生徒、紹介。』
そんな声とともに私は目を見張った。
先生の声と同時に画面に映ってたのは、
―――――「水島歩です。」
私が今たくさんの疑問を抱いて、なぜ画面に出てこないのか不思議に思っていた歩ちゃんだった。
「・・・歩、ちゃん?」
そう私が動揺している中、歩ちゃんは
「お父さんの仕事の関係で転校することになりました。
一年間しかいられなかったけど、たくさんの思い出をつくれてよかったです。
ありがとうございました。」
と淡々と言葉を発し、一礼をして画面から去ってしまった。
『なんで。なんでなんで。
歩ちゃんからそんなこと聞いてない。』
と頭をハンマーで殴られたような感じの衝撃とともに、なぜ歩ちゃんは言ってくれなかったのか不思議だったし、
転校のことを言ってくれなかったことが何より悲しかった。
そのあとは、もう修了式がどんな感じだったかは覚えていない。
ずっと、絶望のどん底に突き落とされたような感覚に襲われていた。
「優笑ちゃん?大丈夫?
・・・おーい!」
という歩ちゃんの声で我に戻って、
「な、なに?
私、大丈夫だよ!
歩ちゃんどうしたの?」
と答えた。
すると・・・
「嘘だぁ!
だってさっきまで、何回読んでも上の空っていうか、全く聞いてない感じだったじゃん!」
「え・・・ほんと?」
「うん。ほんとだよ。」
―――――嘘。
私は歩ちゃんのことを疑ったが、多分私が本当にそんなんだったんだろう。
確かに、歩ちゃんのことで驚き、固まってしまった。
・・・そうだ。そうだった。
「ねね、そんなことより、歩ちゃん、転校ってどういう事?」
と、今一番知りたかったことを聞いた。
「んーとね、放送で言った通りなんだよね、」
「なんで教えてくれなかったの?」
「それは・・・、ごめん。
優笑ちゃん、悲しんじゃいそうだって思って、最後の最後まで楽しく笑い合ってお別れしたかったから。」
「そっか、ありがとう。
でも、教えてほしかった。
教えてくれてたら、一日一日をもっと大切にして過ごしたのに。」
「うん。ごめん。」
「引っ越し、いつなの?」
「今日でぴったり一週間後だよ。」
「そっか。それまでなら一緒に遊べる?」
「うん。最終日は遊べないけどそれまでなら遊べるよ。」
「そしたらそれまで、たくさんあそぼ!
それでたくさん思い出つくろ!」
「うん。そうしよ!」
そう言って明日や明後日などの春休み中の予定を立てた。
部活はたまたま春休み初日から一週間休みだったので問題なかった。
こんなにしっかりと予定を立てたのは、歩ちゃんとの残りの時間を大切にしたかったってこともあったけど、
それよりも予定を立てて会う約束をしないと歩ちゃんがすぐに引っ越してしまいそうな気がしたからだ。
そして、
「また明日ね!」
「うん!楽しみ!」
という言葉を交わして、家に帰った。
そして、今日は歩ちゃんと遊ぶことのできる全五日のうちの初日。
今日はまぶしい太陽が昇っていて、雨は降らなさそう。
昨日歩ちゃんと計画を立てた予定表を見てみる。
「今日は・・・イオネモールか。」
イオネモールとは、スーパー、生活雑貨店、本屋さん、映画館、ドラッグストア、スポーツ用品店などなどのさまざまな専門店が入っている日本全国にある人気の大型ショッピングモールだ。
ちなみに、具体的にどんな事をするのかは、決めていなくて着いてからしたいことをどんどんしていこうということに
なっている。
「服、どうしよ。」
そう言ってクローゼットの中の服を見まわす。
私は基本スカートだが、今日はたくさん歩くので動きやすいミニスカンツという、ミニスカートとショートパンツを
合わせたようなものと、上はパーカーを着ることにした。
待ち合わせは近くの北夜坂駅に十時に集合になっている。
いつも出かけるときの持ち物を小さめのショルダーバッグにいれ、十分前に着くような時間に家を出た。
待ち合わせの駅に行くとしっかり十分前に着いたけど、もう歩ちゃんがいた。
「おはよ!
待たせちゃってごめん。」
「おはよ!
ううん、私も今来たところだから安心して!」
「ほんと?」
「うん!ほんとだよ!
今日はよろしくね!」
「うん!
こちらこそよろしくね!」
そう言って駅の改札を通った。
イオネモールの最寄り駅までは電車で六駅、約二十分だ。
最初は意外と長いなと思ったが、歩ちゃんと静かにしゃべってたらあっという間だった。
そしてバスに乗り換え、イオネモールに着いた。
「「うわぁ・・・おっきい!」」
私たちはバスを降りてイオネモールを見上げてこういった。
家族とは何回も来たことはあったものの、友達だけで来たのは初めてだったのでなぜか新鮮だった。
そして、イオネモールの中に吸い込まれるように私たちは入っていった。
中はものすごい人であふれていた。
そして、たくさんのお店であふれていた。
これ、どこ行くかすんなり決まらなさそうだな・・・
と思っていると、
「すごいことは知ってたし、初めて来たわけでもないのにやっぱりおっきいし何でもあるね。」
と驚きの声がした。
「うん。確かに。はぐれないように気を付けないとだね。」
「そうだよね。気をつけよ!」
そして、歩ちゃんは
「で・・・、はじめはどこ行く?」
と聞いてきた。
「んー。どうしよっか。」
「文房具のあるお店・・・とか?」
「あっ!いいねそれ!そこ行こ!」
といい、思ったよりはやく行き先が決まった。
文房具店は、私たちの想像を軽々超えてしまうほど、たくさんの種類であふれていた。
「これ、めっちゃ悩みそう。。」
「た、確かに。」
そしてお互い長い時間をかけて、おそろいのシャーペン一本と各自の欲しいものを買った。
そのあとは、
「人が多くて、十二時台にお昼ご飯を食べようとすると、すごく混んでなかなか食べれなさそうだよね。」
という歩ちゃんの一声で、フードコートに向かった。
すると思ったよりも人がいて驚いたが、二人用の席を見つけ無事にお昼ご飯を食べることができた。
ご飯後も、映画を見たり服を買ったりし、帰ることにした。
私たちはものすごく楽しんだ分、帰りの電車は二人とも寝てしまった。
そして、北夜坂駅に帰ってきて、
「本当に一日ありがとう!」
「こちらこそだよ!ほんとうにありがと!」
「シャーペン、大事にするね!」
「わたしも!」
「そしたら、明日もよろしくね!」
「うん!よろしく!」
といって、解散になった。
次の日―――――。
今日も昨日よりは少し肌寒いものの、太陽の日が差していて、いい天気だった。
そして、私は昨日のように歩ちゃんと計画を立てた予定表を見てみた。
「今日は・・・猫カフェだ!」
思わず笑みがこぼれてしまった。
猫カフェは、お互いが猫好きだったため
「いつか絶対行こうね!」
と約束していた。
だから、その約束が守れたし、なにより初めての猫カフェに歩ちゃんと行けるということがうれしかった。
今日は、歩ちゃんよりはやく待ち合わせ場所の公園に着いていたかったので、昨日のことを生かして、十五分前に
着くようにして家を出た。
そして、もう少しで公園に着くというところで、歩ちゃんと遭遇した。
「わっ、歩ちゃん!」
「おおっ!優笑ちゃん、おはよー。」
「うん、おはよ!
私公園に着く前に歩ちゃんがいてびっくりした!」
「私もー!」
と驚きながらも、
”もう会えたし待ち合わせ場所に行く必要もない”ということでそのまま猫カフェに向かった。
「猫に会うの楽しみだな!」
「だよねぇー!猫は本当に癒されるしかわいいもん!」
「それめっちゃわかる・・・!」
「やっぱり⁉」
「うん。猫カフェはそんな私たちにとって、めっちゃ幸せなところだよね!」
と二人で猫カフェのことを話したり、猫のことを話したりしていると猫カフェに着いた。
そして私たちは思うがままに猫に癒され、楽しんだ。
するといつの間にか時間は過ぎて行って、私たちの払ったゆったりコースの五時間を終える時間になった。
「五時間は長い!思いっきり癒されるぞー!」
と言っていた歩ちゃんも、今は
「五時間ってこんなに短かったっけ?
もっとここにいたいよー!」
と言っている。
確かに私もそれに関しては同感だった。
五時間はものすごく長いように感じたけど、あっという間ですごく短かった。
そのあと、時間がまだ残っていた私たちはプリクラをとったり、本屋さんに行ったり、コンビニに行ったりして
ゆったりと過ごした。
そしていつの間にか解散する時間となっていた。
「そろそろ帰らないと・・・だね、」
「うん。そうだよね。」
「今日の猫カフェ最高だった!
ありがと!」
「こちらこそありがと!」
「また明日!」
「うん。また明日!」
そういって解散した。
そんな感じで、その次の日はフラワーパークに行って花を見て、そのまた次の日は、カラオケに行って喉がかれるまで思いっきり歌って、とにかく楽しく遊びまくった。
そして五日目・・・。
今日で歩ちゃんと遊ぶのは最後の日になってしまった。
今日は・・・
「私の家で過ごす、か。」
家族にはこの計画を立てた修了式のあったあの日に言っておいたし、そもそも今日はみんな何かしら予定があって
家にいない。
だから問題なく
「分かったわ。家中の掃除してから呼ぶなら、好きにしなさい。」
と許可を得た。
なのであらかじめ、昨日の夜に家中を掃除した。
そして、お母さんに一応、
「このくらい掃除したら友達を呼んでも大丈夫?」
と聞くと、
「うん。いいわよ。」
とあっさり大丈夫だと言ってくれた。
歩ちゃんはまだ私の家を知らないので、前に猫カフェに行くときに待ち合わせをしたあの公園に迎えに行くことに
なっている。
家の鍵を閉め、公園に向かい十五分前に着くと歩ちゃんはその五分後くらいに来た。
「今日もよろしくね!」
そう歩ちゃんに言われ、
「うん。こちらこそよろしくね」
と、ここ数日のうちに、朝最初に会った時に当たり前のようにするようになった挨拶を交わし、家に案内した。
自分の家に向かう途中、何回か
『今日で最後だね』
とか
『もっとたくさん遊びたかったな』
とかと言いそうにになったが、そんなことはなぜか言ってはいけない気がしたし、言うとしても今じゃなくて帰る時だと
思って言わなかった。
そして自分の家に着いた。
家の鍵を開け、
「どうぞ。入っていいよ。」
と中に入ってもらった。
友達を家に招いたのは初めてで、少しグダグダになりそうで心配だけど、今日の朝、”人を家に招くときにやっては
いけないこと”と調べて頭に入れておいたので、失敗だけはしないようにしたい。
そして、歩ちゃんとリビングで楽しみつつ、ゆっくりしてもらえるようにして、すごろくをしたり、お菓子を食べたりして
過ごした。
気づくといつの間にかそろそろ帰らないといけない時間になっていた。
「そしたら、もう時間だし帰ろっかな。」
と歩ちゃんが言ったので、
「あ、ちょとまってて!」
そういって私は自分の部屋に行き、一つの袋を取りリビングに急いだ。
「はい!これ!」
そして今取ってきた袋を歩ちゃんに差し出した。
「これは・・・?」
「袋の中開けてみて!」
「うん。分かった!」
歩ちゃんは私の渡した袋を開けて中を見ると
「うわぁ!これってハンカチ?
しかも私のイニシャル入ってる!」
と言って笑顔を浮かべてくれた。
「うん!そうだよ!正解!
歩ちゃんは名字に”水”って感じっが入ってるから青色がベースのものにしたんだけど、どうかな?」
「めっちゃ可愛いよ!
私、水色好きだからうれしい!」
そういって歩ちゃんは「お礼に・・・」といって私に小さい紙袋を渡して、
「中、見てみて!」
といった。
「分かった!」
そう言って中を開けるとそこには黒色のシュシュが入っていた。
「かわいい・・・!」
思わずそうつぶやくと、
「でしょー!
喜んでくれてよかった!」
と歩ちゃんも嬉しそうにして答えてくれた。
そして・・・
「それじゃあ、あの公園まで送るね」
「ほんと?
ありがとう!助かる。」
という会話をして、家をでた。
外はオレンジ色の夕焼けが広がっていた。
歩ちゃんと歩きながら、
「夕焼け、きれいだね。」
「うん。めっちゃきれい。」
そう夕焼けの話をした。
不意に歩ちゃんが
「引っ越したくないな・・・。」
とつぶやいた声が聞こえた。
横を見ると歩ちゃんは上を向いて静かに泣いていた。
「そんなこと言ったら今日歩ちゃんと別れられないじゃん。」
「だよね。でも、本当に別れたくないや。」
「私も。なんか、こんな話すると本当に分かっていたはずの現実をまた突きつけられた感じがするな」
「ね、やっぱりさみしい。」
そうしてとうとう公園に着いてしまった。
「戻ってくる?」
言ってから、”しまった!”と思ったが歩ちゃんは
「うん。きっと戻ってこれる。
その時はまたよろしくね」
といって赤い目を細めて笑ってくれた。
「うん。よろしく。
私のことそう言っておきながら忘れたら許さないからね?」
「大丈夫!絶対忘れない!
優笑ちゃん、学校頑張ってね!
何かあったら連絡して!」
「分かった。頑張る。
歩ちゃんも転校先のこととか、聞かせて!
あと、困ったこととかつらいことがあったら連絡してね!」
「うん。分かった。」
そう話し終えた後、歩ちゃんは
「それじゃあ、またね」
と言って私に背を向け、歩き出した。
「うん。またいつか!」
そう私は言って歩ちゃんが見えなくなるまで手を振った。
歩ちゃんは一度だけ振り返り手を振り返してくれた。
だけどそのあとはもう、振り返えらなかった―――――。
「だよね、、いい成績でありますように!」
そう歩ちゃんと話している。
今日は、進級前最後の登校日。
修了式と通知表の配布がある大事な日。
私の学校は、”通知表”というものが配られる。
通知表は、配られない学校もある。
だから私は今『”通知表”というもの』といった。
これは、一応説明すると前期と後期の最後に配られる、副教科を含めた全科目の成績の一覧表みたいなものだ。
それには先生のコメントもここの中学は書いてくれているし、出席数や受賞したコンクールの名前なども載っている。
そして、ここら辺の高校はこの通知表の成績を見て入試の時、テストと面接にプラスで点数をつける。
そして受験の合否が決まる。
そんなことがこの市では行われていて、最近では、この市以外のところでもほとんどの中学校が通知表を出していて、
ほとんどの高校が通知表を受験に取り入れている。
ということもあり、私たちにとっては一、二年後の自分に影響するため、ものすごく必死なのだ。
「次、優笑ー。」
「はいっ。」
そんな返事をして廊下に向かった。
先生の座っている前に立ち、
「今年一年、お世話になりました。」
そう言って、始まった。
「おう。優笑。今年はありがとな。
優笑は成績、信頼ともに良い評価だぞ。
頑張ったな、お疲れ様。
ただ、一つあるとしたら、この間のいじめの件だな。
あれも真相が先生もわからなくなってきたから、何かあればまた先生のところに来て教えてくれ。
先生も場合によっては優笑のことを怒ることもあるかもしれないが、優笑の味方でもあるんだから何かあったかいってな。」
「はい。分かりました。
本当にありがとうございました。
来年もお世話になることがあればよろしくお願いします。」
「あぁ、よろしくな。」
そういって、握手をして終わった。
自分の席に戻る前に後ろで通知表の中身を確認した。
今年は前期含めて、いい成績だった。
でも、いまだにクラスの人とはうまくいっていない。
「本当にこれで良いのかな・・・。」
私は、成績表が良くても人間関係はこれから生きていく中でうまくやっていかなければならない、大切なこと。
だけど、今の私は全然うまく関係を築けていない。
それは少し、どうなのかなと思った。
二匹オオカミ。
その名のまま、ここまで来た。
でも、ずっとこのまま過ごしていくわけにはいかない。
二年生。
後輩ができる。
私は、うまくやっていけるのだろうか。
あの小学生の時と最近の緑ちゃん達の件から人にどう思われ、どんな風にみられているのか不安で、
気持ちが切り換えられていたとしても、本当の私、内側の私は変われていない。
でも、歩ちゃんとなら。
歩ちゃんがいてくれたら。
私は少しずつ変わっていけるかもしれない。
私も歩ちゃんのことを支えてあげたりして頑張っていけばどうにかなっていける。
そういう風に心の中で『頑張ろう。』と気合を入れて席に戻った。
「優笑、成績どう?よかった?いい感じだった?」
「うん。今回も前期同様、いい感じ!」
「よかったじゃん!
いいなー!私これからだから不安だよー、」
「歩ちゃんは絶対大丈夫だよ!」
「そうかな・・・?
でもなんか少し自信が出てきたかも!」
「次、水島ー」
「あ、先生に呼ばれた!
行ってくるね!」
「うん!いってらしゃい!」
そういって歩ちゃんは廊下に行った。
歩ちゃんはしっかりしてて、強くてかっこよくて、だけどかわいくて、そんな子はきっと先生も評価してくれるだろう。
そう考えて、歩ちゃんの成績がいいことを願いながら歩ちゃんが返ってくるのを待った。
「優笑ちゃん!今回、私もいい感じだった!
よかったー!」
そんな声とともに歩ちゃんが戻ってきた。
「え!ほんと⁉
やったぁ!よかったじゃん!」
「一緒に喜んでくれてありがと!」
「うん!お互いいい成績で安心だね!」
そう言葉を交わしてお互い一安心した。
そして次は修了式に入った。
すると歩ちゃんは
「表彰されるから、放送室行ってくる!
またね!」
と言って、私の言葉を待たないで”タタタッ”と放送室に行ってしまった。
「あ、うん。いってらしゃい!」
もういない歩ちゃんに向けて私は声を出し、そして自分の席に座り、修了式が始まるのを待った。
『開式の言葉』
『はい。』
そういう言葉で修了式が始まった。
しばらくして、
『表彰式に移ります。』
という言葉が聞こえた。
・・・そういえば、歩ちゃんは
『表彰されるから』
と言っていた。
つまり歩ちゃんが出るということだ。
私は
『歩ちゃんは何で表彰されるんだろう』
そう、ワクワクしながら放送室で行われている修了式の映像をクラスのテレビの画面から見つめていた。
でも・・・歩ちゃんはいくら待っても表彰されなかった。
そして
『これで表彰式を終わります。』
という声で終わってしまった。
歩ちゃんはなぜ映らなかったのだろうか。
どうして放送室に行ったのだろうか。
そんな疑問が次から次へと浮かんできた。
そして、
『転校生徒、紹介。』
そんな声とともに私は目を見張った。
先生の声と同時に画面に映ってたのは、
―――――「水島歩です。」
私が今たくさんの疑問を抱いて、なぜ画面に出てこないのか不思議に思っていた歩ちゃんだった。
「・・・歩、ちゃん?」
そう私が動揺している中、歩ちゃんは
「お父さんの仕事の関係で転校することになりました。
一年間しかいられなかったけど、たくさんの思い出をつくれてよかったです。
ありがとうございました。」
と淡々と言葉を発し、一礼をして画面から去ってしまった。
『なんで。なんでなんで。
歩ちゃんからそんなこと聞いてない。』
と頭をハンマーで殴られたような感じの衝撃とともに、なぜ歩ちゃんは言ってくれなかったのか不思議だったし、
転校のことを言ってくれなかったことが何より悲しかった。
そのあとは、もう修了式がどんな感じだったかは覚えていない。
ずっと、絶望のどん底に突き落とされたような感覚に襲われていた。
「優笑ちゃん?大丈夫?
・・・おーい!」
という歩ちゃんの声で我に戻って、
「な、なに?
私、大丈夫だよ!
歩ちゃんどうしたの?」
と答えた。
すると・・・
「嘘だぁ!
だってさっきまで、何回読んでも上の空っていうか、全く聞いてない感じだったじゃん!」
「え・・・ほんと?」
「うん。ほんとだよ。」
―――――嘘。
私は歩ちゃんのことを疑ったが、多分私が本当にそんなんだったんだろう。
確かに、歩ちゃんのことで驚き、固まってしまった。
・・・そうだ。そうだった。
「ねね、そんなことより、歩ちゃん、転校ってどういう事?」
と、今一番知りたかったことを聞いた。
「んーとね、放送で言った通りなんだよね、」
「なんで教えてくれなかったの?」
「それは・・・、ごめん。
優笑ちゃん、悲しんじゃいそうだって思って、最後の最後まで楽しく笑い合ってお別れしたかったから。」
「そっか、ありがとう。
でも、教えてほしかった。
教えてくれてたら、一日一日をもっと大切にして過ごしたのに。」
「うん。ごめん。」
「引っ越し、いつなの?」
「今日でぴったり一週間後だよ。」
「そっか。それまでなら一緒に遊べる?」
「うん。最終日は遊べないけどそれまでなら遊べるよ。」
「そしたらそれまで、たくさんあそぼ!
それでたくさん思い出つくろ!」
「うん。そうしよ!」
そう言って明日や明後日などの春休み中の予定を立てた。
部活はたまたま春休み初日から一週間休みだったので問題なかった。
こんなにしっかりと予定を立てたのは、歩ちゃんとの残りの時間を大切にしたかったってこともあったけど、
それよりも予定を立てて会う約束をしないと歩ちゃんがすぐに引っ越してしまいそうな気がしたからだ。
そして、
「また明日ね!」
「うん!楽しみ!」
という言葉を交わして、家に帰った。
そして、今日は歩ちゃんと遊ぶことのできる全五日のうちの初日。
今日はまぶしい太陽が昇っていて、雨は降らなさそう。
昨日歩ちゃんと計画を立てた予定表を見てみる。
「今日は・・・イオネモールか。」
イオネモールとは、スーパー、生活雑貨店、本屋さん、映画館、ドラッグストア、スポーツ用品店などなどのさまざまな専門店が入っている日本全国にある人気の大型ショッピングモールだ。
ちなみに、具体的にどんな事をするのかは、決めていなくて着いてからしたいことをどんどんしていこうということに
なっている。
「服、どうしよ。」
そう言ってクローゼットの中の服を見まわす。
私は基本スカートだが、今日はたくさん歩くので動きやすいミニスカンツという、ミニスカートとショートパンツを
合わせたようなものと、上はパーカーを着ることにした。
待ち合わせは近くの北夜坂駅に十時に集合になっている。
いつも出かけるときの持ち物を小さめのショルダーバッグにいれ、十分前に着くような時間に家を出た。
待ち合わせの駅に行くとしっかり十分前に着いたけど、もう歩ちゃんがいた。
「おはよ!
待たせちゃってごめん。」
「おはよ!
ううん、私も今来たところだから安心して!」
「ほんと?」
「うん!ほんとだよ!
今日はよろしくね!」
「うん!
こちらこそよろしくね!」
そう言って駅の改札を通った。
イオネモールの最寄り駅までは電車で六駅、約二十分だ。
最初は意外と長いなと思ったが、歩ちゃんと静かにしゃべってたらあっという間だった。
そしてバスに乗り換え、イオネモールに着いた。
「「うわぁ・・・おっきい!」」
私たちはバスを降りてイオネモールを見上げてこういった。
家族とは何回も来たことはあったものの、友達だけで来たのは初めてだったのでなぜか新鮮だった。
そして、イオネモールの中に吸い込まれるように私たちは入っていった。
中はものすごい人であふれていた。
そして、たくさんのお店であふれていた。
これ、どこ行くかすんなり決まらなさそうだな・・・
と思っていると、
「すごいことは知ってたし、初めて来たわけでもないのにやっぱりおっきいし何でもあるね。」
と驚きの声がした。
「うん。確かに。はぐれないように気を付けないとだね。」
「そうだよね。気をつけよ!」
そして、歩ちゃんは
「で・・・、はじめはどこ行く?」
と聞いてきた。
「んー。どうしよっか。」
「文房具のあるお店・・・とか?」
「あっ!いいねそれ!そこ行こ!」
といい、思ったよりはやく行き先が決まった。
文房具店は、私たちの想像を軽々超えてしまうほど、たくさんの種類であふれていた。
「これ、めっちゃ悩みそう。。」
「た、確かに。」
そしてお互い長い時間をかけて、おそろいのシャーペン一本と各自の欲しいものを買った。
そのあとは、
「人が多くて、十二時台にお昼ご飯を食べようとすると、すごく混んでなかなか食べれなさそうだよね。」
という歩ちゃんの一声で、フードコートに向かった。
すると思ったよりも人がいて驚いたが、二人用の席を見つけ無事にお昼ご飯を食べることができた。
ご飯後も、映画を見たり服を買ったりし、帰ることにした。
私たちはものすごく楽しんだ分、帰りの電車は二人とも寝てしまった。
そして、北夜坂駅に帰ってきて、
「本当に一日ありがとう!」
「こちらこそだよ!ほんとうにありがと!」
「シャーペン、大事にするね!」
「わたしも!」
「そしたら、明日もよろしくね!」
「うん!よろしく!」
といって、解散になった。
次の日―――――。
今日も昨日よりは少し肌寒いものの、太陽の日が差していて、いい天気だった。
そして、私は昨日のように歩ちゃんと計画を立てた予定表を見てみた。
「今日は・・・猫カフェだ!」
思わず笑みがこぼれてしまった。
猫カフェは、お互いが猫好きだったため
「いつか絶対行こうね!」
と約束していた。
だから、その約束が守れたし、なにより初めての猫カフェに歩ちゃんと行けるということがうれしかった。
今日は、歩ちゃんよりはやく待ち合わせ場所の公園に着いていたかったので、昨日のことを生かして、十五分前に
着くようにして家を出た。
そして、もう少しで公園に着くというところで、歩ちゃんと遭遇した。
「わっ、歩ちゃん!」
「おおっ!優笑ちゃん、おはよー。」
「うん、おはよ!
私公園に着く前に歩ちゃんがいてびっくりした!」
「私もー!」
と驚きながらも、
”もう会えたし待ち合わせ場所に行く必要もない”ということでそのまま猫カフェに向かった。
「猫に会うの楽しみだな!」
「だよねぇー!猫は本当に癒されるしかわいいもん!」
「それめっちゃわかる・・・!」
「やっぱり⁉」
「うん。猫カフェはそんな私たちにとって、めっちゃ幸せなところだよね!」
と二人で猫カフェのことを話したり、猫のことを話したりしていると猫カフェに着いた。
そして私たちは思うがままに猫に癒され、楽しんだ。
するといつの間にか時間は過ぎて行って、私たちの払ったゆったりコースの五時間を終える時間になった。
「五時間は長い!思いっきり癒されるぞー!」
と言っていた歩ちゃんも、今は
「五時間ってこんなに短かったっけ?
もっとここにいたいよー!」
と言っている。
確かに私もそれに関しては同感だった。
五時間はものすごく長いように感じたけど、あっという間ですごく短かった。
そのあと、時間がまだ残っていた私たちはプリクラをとったり、本屋さんに行ったり、コンビニに行ったりして
ゆったりと過ごした。
そしていつの間にか解散する時間となっていた。
「そろそろ帰らないと・・・だね、」
「うん。そうだよね。」
「今日の猫カフェ最高だった!
ありがと!」
「こちらこそありがと!」
「また明日!」
「うん。また明日!」
そういって解散した。
そんな感じで、その次の日はフラワーパークに行って花を見て、そのまた次の日は、カラオケに行って喉がかれるまで思いっきり歌って、とにかく楽しく遊びまくった。
そして五日目・・・。
今日で歩ちゃんと遊ぶのは最後の日になってしまった。
今日は・・・
「私の家で過ごす、か。」
家族にはこの計画を立てた修了式のあったあの日に言っておいたし、そもそも今日はみんな何かしら予定があって
家にいない。
だから問題なく
「分かったわ。家中の掃除してから呼ぶなら、好きにしなさい。」
と許可を得た。
なのであらかじめ、昨日の夜に家中を掃除した。
そして、お母さんに一応、
「このくらい掃除したら友達を呼んでも大丈夫?」
と聞くと、
「うん。いいわよ。」
とあっさり大丈夫だと言ってくれた。
歩ちゃんはまだ私の家を知らないので、前に猫カフェに行くときに待ち合わせをしたあの公園に迎えに行くことに
なっている。
家の鍵を閉め、公園に向かい十五分前に着くと歩ちゃんはその五分後くらいに来た。
「今日もよろしくね!」
そう歩ちゃんに言われ、
「うん。こちらこそよろしくね」
と、ここ数日のうちに、朝最初に会った時に当たり前のようにするようになった挨拶を交わし、家に案内した。
自分の家に向かう途中、何回か
『今日で最後だね』
とか
『もっとたくさん遊びたかったな』
とかと言いそうにになったが、そんなことはなぜか言ってはいけない気がしたし、言うとしても今じゃなくて帰る時だと
思って言わなかった。
そして自分の家に着いた。
家の鍵を開け、
「どうぞ。入っていいよ。」
と中に入ってもらった。
友達を家に招いたのは初めてで、少しグダグダになりそうで心配だけど、今日の朝、”人を家に招くときにやっては
いけないこと”と調べて頭に入れておいたので、失敗だけはしないようにしたい。
そして、歩ちゃんとリビングで楽しみつつ、ゆっくりしてもらえるようにして、すごろくをしたり、お菓子を食べたりして
過ごした。
気づくといつの間にかそろそろ帰らないといけない時間になっていた。
「そしたら、もう時間だし帰ろっかな。」
と歩ちゃんが言ったので、
「あ、ちょとまってて!」
そういって私は自分の部屋に行き、一つの袋を取りリビングに急いだ。
「はい!これ!」
そして今取ってきた袋を歩ちゃんに差し出した。
「これは・・・?」
「袋の中開けてみて!」
「うん。分かった!」
歩ちゃんは私の渡した袋を開けて中を見ると
「うわぁ!これってハンカチ?
しかも私のイニシャル入ってる!」
と言って笑顔を浮かべてくれた。
「うん!そうだよ!正解!
歩ちゃんは名字に”水”って感じっが入ってるから青色がベースのものにしたんだけど、どうかな?」
「めっちゃ可愛いよ!
私、水色好きだからうれしい!」
そういって歩ちゃんは「お礼に・・・」といって私に小さい紙袋を渡して、
「中、見てみて!」
といった。
「分かった!」
そう言って中を開けるとそこには黒色のシュシュが入っていた。
「かわいい・・・!」
思わずそうつぶやくと、
「でしょー!
喜んでくれてよかった!」
と歩ちゃんも嬉しそうにして答えてくれた。
そして・・・
「それじゃあ、あの公園まで送るね」
「ほんと?
ありがとう!助かる。」
という会話をして、家をでた。
外はオレンジ色の夕焼けが広がっていた。
歩ちゃんと歩きながら、
「夕焼け、きれいだね。」
「うん。めっちゃきれい。」
そう夕焼けの話をした。
不意に歩ちゃんが
「引っ越したくないな・・・。」
とつぶやいた声が聞こえた。
横を見ると歩ちゃんは上を向いて静かに泣いていた。
「そんなこと言ったら今日歩ちゃんと別れられないじゃん。」
「だよね。でも、本当に別れたくないや。」
「私も。なんか、こんな話すると本当に分かっていたはずの現実をまた突きつけられた感じがするな」
「ね、やっぱりさみしい。」
そうしてとうとう公園に着いてしまった。
「戻ってくる?」
言ってから、”しまった!”と思ったが歩ちゃんは
「うん。きっと戻ってこれる。
その時はまたよろしくね」
といって赤い目を細めて笑ってくれた。
「うん。よろしく。
私のことそう言っておきながら忘れたら許さないからね?」
「大丈夫!絶対忘れない!
優笑ちゃん、学校頑張ってね!
何かあったら連絡して!」
「分かった。頑張る。
歩ちゃんも転校先のこととか、聞かせて!
あと、困ったこととかつらいことがあったら連絡してね!」
「うん。分かった。」
そう話し終えた後、歩ちゃんは
「それじゃあ、またね」
と言って私に背を向け、歩き出した。
「うん。またいつか!」
そう私は言って歩ちゃんが見えなくなるまで手を振った。
歩ちゃんは一度だけ振り返り手を振り返してくれた。
だけどそのあとはもう、振り返えらなかった―――――。