「今日はなんだか暗いな。」
いつも通りに起きた私がいつもと少し違う言葉を発した。
空には灰色の雲が広がっていて、気温もいつもより低く、鳥肌が立つほどだった。
曇りの日といえば・・・。
私が、学校で友達と話したり、先生と話したりするときに作り笑いしているようになったきっかけになる出来事があったのも今日みたいな曇りの日だった。
ちょうど去年の今頃、もう少しで小学校を卒業するという時期だった。
私はそんなとき一番仲が良いいと思っていたグループに
『優笑は八方美人だし、よく自慢してくるし、ほんとにうざいよね。はやくこのグループからいなくなってほしいわ。』
『たしかに!マジでめざわりだよね。』
『本当にうちらと仲がいいって思ってるの、バカすぎて笑えてくるんだけど』
『その気持ちめっちゃわかるんだけど!』
などと、好き勝手に悪口を言っているところを聞いてしまった。
私はその時の怖さを今も昨日のように覚えているし、あの時のことを思い出すと泣きたくなる。
あの時は怖くて、心臓のあたりがズキズキして、そしてみんなへのいらだちも出てきて、泣きたくなくても涙が出てきて、
止まらなくて、人のいない屋上の入り口まで走っていって、思いっきり泣いた。
そして泣きながら、
『なんでっ、、どうしてっ。
いつもみんな私がいれば最強だねって言ってくれたじゃん。
ずっと仲良くしようねって、大好きだよって、言ってくれたじゃん。
全部・・・、全部嘘だったんだ・・・。
あのみんなで笑いあった時の笑顔も、私の誕生日の日にみんなで撮った写真の笑顔も全部嘘だったの・・・?
私は今までみんなで出かけたとき、邪魔者だったの⁉めざわりだったの⁉
私は普通に生活していただけなのにっ。
普通に楽しく過ごしていただけなのにっ。
なんでっ・・・。なんでっ・・・。
こんなのおかしいよ。
みんなと楽しんで、笑って、そうやってみんなと同じことをしてきたのにっ、
なんで私だけ嫌われなくちゃいけなかったの?
どうして周りは楽しんで、笑っていても嫌われないの?
――――ひどすぎるっ。。』
そうやっていっぱい愚痴を言った。
でも、いくら言っても怖さも、心臓当たりの痛みも、いらだちも、涙も、全く止まらなかった。
むしろ、愚痴を言ってグループみんなでの思い出を思い出すたびにひどくなって、
風邪をひいたり、水の中に顔を入れてずっと息を止めているときよりも苦しくなっていった。
・・・もちろんそうやって泣いて、泣きはらして、家に帰ってまた泣いて―――。
と、どれだけつらい思いをしても、あの時言っていた悪口を本人に聞かれていたとも知らないグループのみんなは謝ろうとはしてこない。
それどころか、次の日もその次の日も私と一緒にしゃべっては笑いあった。
でも、私にはその笑顔も、言葉一つ一つも恐怖でしかなかった。
そして、その問題は解決せず卒業するときになった。
卒業式当日。
・・・私はみんなが”最後の思い出”といって思い出を作っている間、人といるのが怖くなって、先生に挨拶をしてすぐに家に帰った。
だから、それ以来笑うのが怖くなってしまい、作り笑いをするようになった。
あとは・・・人のことを信用することが簡単にできなくなっていた。
だから唯一、信用している歩ちゃん以外とは気軽に話せないし、頼み事もできなかった。
・・・・・そんな苦しい思い出がある私は、
『今日は何か、いつもと違うことが起きる。』
ということを直感的に感じた。
そのせいか、今日は身支度が早く終わってしまい普段ならできない”暇な時間”ができてしまった。
十分後、ようやく家を出るいつもの時間になり家を飛びだした。
いつも通りの道・・・なのに今日は”知らない街に来た時の不安”のようなものがあった。
そして気づくといつの間にか
「ちょっと怖い。。」
と、声を出していた。
私は、怖さの消えないまま学校に着いた。
いつもは普通に入っている教室もなぜか少し入るのが怖く遠慮してしまった。
でも、扉の前で立ち止まっていても、逆に周りから不思議な目を向けられる気がして仕方なく教室へと一歩踏み出した。
ただ、そこからは別に何事もなかった。
朝、いつもと変わらず歩ちゃんに
「おはよ」
というと歩ちゃんも
「おはよっ!」
と笑顔で返してくれた。そしてその後の会話も問題なく進んだ。
そんな感じで、四時間目もいつも通りに終えた。
私はだんだん『気のせいだったのかな。』と思い始めてきていた。
でも、そう思えていけたのは昼休みまでだった・・・。
昼休み。
私はいつもと変わらず、先生に呼ばれた。
今日は、会議室Aに来るようにと言われていたので、今そこに向かっている。
会議室Aは私の教室からやや離れていて怖いくらい生徒が全くいなかった。
「失礼します。」
そういうと珍しく先生はもう中にいて、
「おお、優笑。ここに座ってくれるかな。」
と言った。
先生の意味深な言葉を聞いた瞬間、『ドックン・・』ど心臓が嫌な音を立てた。
やっぱり今日の朝の直感は間違っていなかったんだ。
そう思い、私はやや震えた声で
「はい。分かりました。」
と返事をし、先生と向かい合っておかれている椅子に座った。
私が座ると先生は
「最近学校はどうかな?」
と何かを見るような目、先生がいう前に自分から言ってほしいとでもいうような目を私に向けながら言った。
多分、今は何か変なことを考えていうよりも先生の言葉に沿ったはっきりとしたことを返したほうがいいだろうと思い、
「えと、、・・・・・楽しい、です。」
といった。でも、自分が思っているよりも緊張していて、怖がっているのだろう。
歯切れが悪くなってしまった。
「・・・、」
「・・・・・?」
先生はそのあと何も言わず、でも私を見る目は変わっていなくて、私も黙るしかなかった。
でも、本題はなんだろう。
私は沈黙の中、一つのハテナが浮かんでしまった。
『本当になにかしたっけ、?』
どうしても、私は自分が何をしたかはっきりとは分からなかった。
・・・だけど、もし心当たりがあるとしたら。
一つだけ頭の中に浮かぶことがあった。
数分の沈黙が続き、それに耐えられなくなった私は、
「先生に何かお願いされたことの中・・・で、何かしっかり出来ていないことがあったりしましたか?、、」
と心当たりがあったことを話した。
すると先生は、少し悲しそうな、そして絶望したというような目を向けた。
私は何も言われていないのに、なぜが悲しくなってきた。
そう一人で悲しくなっていると急に空気が揺れた。
「そうじゃないんだよな・・・。」
急に何を言うのかと思ったら、、先生はそう口にした。
『え、、そういわれても。私本当に何をしたんだろう。』
私はどんどんわからなくなっていった。
そしてまた沈黙が流れた。
『・・・気まずい。こうなるなら言わなければよかったな。』
と私は反省した。
何分経ったかわからない。
ずっと沈黙と気まずさが流れていると先生がその沈黙と気まずさを破るかのように口を開いた。
「優笑は、友達をどう思ってる?」
先生の太く、そして低い声、あとは私を見ている先生の目はものすごく迫力があった。
いつもなら冷静に考えその場にあった返事を返せるかもしれない。
だけど、今は自分でもわかるほど頭がごちゃごちゃになっていた。
『なんて返そう。友達か・・・。友達、友達、、・・・。あっ!』
とっさに唯一の友達の歩ちゃんのことだと判断し、
「やっ、優しい人だと、思います。」
そう答えた。
・・・また歯切れが悪くなってしまった。
心の中で『もう沈黙が流れませんように。。もう気まずくなりませんように。。』
と祈りながら先生を見ると、思いのほか先生は腕を組み、何かを考えていた。
そしてふっと私のほうをまた見た。
その先生の目はもうさっきまでの目ではなくなっていた。
―――複雑そうな目だった。
先生は静かに言った。
「優笑。昨日な、先生の所に男子が二人と女子が三人ほど来て、”優笑がいつもいじめてきて、、だから助けてください”って
言われたんだ。
・・・・・私は正直に言ってほしい。
本当なのか?」
―――――っ!!!
私は驚きと動揺を隠せなかった。
『”私がいじめる”っ?
いじめみたいなことをされたことがあって、いじめのつらさをよく理解している私が?
そんなこと・・・』
「そんなこと、するわけないじゃないですかっ。」
気づいたらそう口にしていた。
先生は困ったように眉毛を下げて、
「私もそうだと信じていたい気持ちもあるよ。
だけど、その男子と女子が私のところに来てくれたという事実は変わりないんだ。」
といった。
そこで私はまた疑問が浮かんだ。
・・・先生はさっきからいじめの報告をしに行った人のことを”男子、女子”と言っている。
なんでだろう。
そう思い、私は先生に聞いてみた。
「先生。その男子と女子って・・・誰、ですか?」
すると先生は
「すまんな。それはその子たちに名前をだすなと口止めされている以上私は何も言えないんだ。」
そういった。
でも・・・私は何となく予想がついていた。
”あの、昔私の悪口をいっていたグループ”
何人もいたあのグループは、受験をして違う中学校に行く子もいたものの、ちょうど男子が二人と女子が三人、この中学校に入学していた。
だけど、私は
「そうですか・・・。分かりました。」
と答えた。
すると、『話がうまく途切れたこの時を待っていました!』とでもいうように
「キーンコーンカーンコーン・・・」
と昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「教室、戻ろうか。」
そう先生に言われ、
「はい。」
とそっけなく答えた。
なんだろう・・・。
すごく、イライラする。でも爆発的な感じじゃない。
静かな感じ。でも、ものすごく熱く燃えている炎のようなイラつき。
自分ではあまり気づいていなかったけど、心の中で、
『なんでまた、そうやって良くわからないことをして人をいじめようとするの?』
って、
『どうして、先生を味方につけて先生から私への信頼みたいなのも一緒に引き裂こうとするの?』
ってムカついてた。
――――――私、もうあのグループと距離を取って、もう何も言われず、どちらも嫌な思いをしなくて済むようにしたのに。なんでまた、私のことを追いかけて何かしてこようとするんだろう。
私、何か間違ってたのかな・・・。
そんな気持ちのまま、教室に戻った。
そして帰りの会の時、先生は私に
「来年になってもいいから、”自分が悪かった”って思ったら先生のところに来てくれ。
ただ、もう人に嫌がられそうなことはしないでな。」
・・・そういわれた。
私は、くぎを刺された気分になった。
まあ、そうなりますよね。
世の中は絶対にやられたといっている人のほうを信じる。
つまり、先生は私の敵であるということになる。
それは、”嘘をつかれていたとしても。”
私がいじめたという嘘の情報であっても、変わらない。
この世界はそういうものなんだろう・・・、
そして迎えた放課後。
部活に行くと、みんな私を避けていった・・・気がした。
すると近くから、
「ねぇ、ねぇ、あの子じゃない?」
「なにが?」
「あの、緑さんとかをいじめたっていう。」
「あぁ!たしかにそうかも。」
「かわいそうだよね。緑さんいろんな人に”助けてほしい”って訴えてたらしいし。」
「うそ。そんなに?やばすぎじゃん。」
「バスケ部の子たちも言わないだけで、いじめられてるのかもしれないよね。」
「うわ。かわいそー。」
という声が聞こえた。
・・・どれだけ面倒なんだよ。
ひきょうにも程がある。
自分たちのことを信じてもらうためにここまでして仲間を増やして、。
そもそも、あそこのグループと関わってもないのにどうすればいじめられるっていうの?
でも、”嘘情報。勝手に、人工的に考えられた嘘の話。”とは全く知らない人は、そうやって嘘の情報に対して、
どんどん妄想を広げていっている。そして、どんどん私のことを”やばい子”とか”人をいじめる子”とかって言い、悪いモノ扱いしていく。
やっぱり、あの子たちが考えることは恐怖なことばかりだ。
そして、その恐怖は家に帰っても続いた。
家に帰り、いつものようにリビングに転がっている碧唯のランドセルを見て、サッカーに行ったことを確認し自分の部屋に行き、その日はリュックを置いてスマホを触った。
私のスマホはLAINやカレンダーのアプリやメモのアプリなどといった最低限のものしか入っていない。
その中でまともに使うことがあるのがLAINだけど、個人で連絡先を交換しているのが六人とグループLAINが一つ。
それも個人で連絡先を交換している人は、お父さん、お母さん、碧唯、おばあちゃん、おじいちゃんの血のつながりのある人と唯一心を許している歩ちゃんだけだ。
そしてグループLAINも、”一応入っている程度”のクラスのグループだけだ。
だから、対してスマホは開かない。
多くて二日に一回程度くらい。
だけど、今日はクラスLAINで何か言われてるかも知らないと思い気になってスマホを開き、そしてLAINのアイコンをみた。
すると、怖いくらいのスピードで通知の数が増えていっていた。
『何を話しているんだろう。』
『何か私のことを話しているのかもしれない。』
私は、はやく何が起きているのか知りたかった。
だけど、それ以上に
”自分がもっと傷つくかもしれない。”
という気持ちが大きく、自分が怖さでダメになってしまうのを恐れてしまっていた。
だけど、怖さのせいにして前に進まないと何もわからない。
そう思い、何分も決意を固められるまで待ち、自分でもわかるほどぶるぶると震えている手でLAINのアイコンをタップした。
すると、予想通りクラスLAINがすごいことになっていた。
多分今の私の目は見開かれ、恐怖で固まっていると思う。
そして、最後の勇気を出し、みんなのメッセージを読み始めた。
【みんな、あの優笑の噂、聞いた?】
【うん。聞いた聞いた!】
【私も聞いたよー!】
【やばい・・・よね、】
【たしかに、、びっくりした】
【あんな子だったんだね。】
【ね、そんなことする子だって知らなかった。】
【だよね、】
【うちらの前ではいい子だったよね。】
【うん。】
【先生にも好かれてたよね。】
【表と裏ありすぎじゃない⁉】
【ね、怖すぎだわ。】
【待って、今気づいたけど、このグループに優笑もいるよ?】
【え、あ、たしかに。】
【でも、学年に広まってることだし今更・・・って感じじゃない?】
・・・ここまで読んで、私はクラクラしてきた。
やっぱり、みんなそうなるよね。
誰も私の味方になるはずないよね。。
そう現実を突きつけられたように感じた。
そして、今もずっと通知が来ているけれど、
”これ以上見ても意味がない。同じようなことを言われているだけだろう。”
と思いLAINを閉じようとして閉じるためのボタンを押した。
だけどなぜか運悪く最新のメッセージを見るボタンを押してしまい、勝手に画面が下から上へと流れていく。
「・・・最悪だ。もっと私のことを悪者だと思いこみ、ありもしないへんな妄想を広げている会話をみたって、心臓がえぐられるような苦しさを味わうだけなのに。」
そう、私の苦しみの言葉は冷たい空気の中に消えていった。
そして、画面が止まった、多分今画面を見ると、さらに悪者視された私の話をしているのだろう。
でも・・・画面を閉じるにしろ、何をするにしろ、画面は見えてしまう。
私は、できるだけ見えないように細心の注意をはらいながらLAINを閉じようとした。
だけどやっぱり画面を見てしまった。
しかし、そこでは思いもよらないことが話されていて私は息をのんだ。
「なに、これ、・・・。」
たった今みんなが話していたのはなぜか歩ちゃんのことだったのだ。
「どうしてこうなったの・・・⁉」
私は驚きで、自分の苦しみを忘れるほどだった。
そして無意識に少し前の会話を見て、なぜ私の話から歩ちゃんの話に移り変わってしまったのか、その原因を探していた。
―――――その後、私が見つけた原因は想像をはるかに超えるものだった。
【優笑ちゃんはそんな子じゃない。
しかもどんどん変な妄想をするのはおかしいと思う!】
というものだった。
つまり、歩ちゃんは私をかばったせいでこうなってしまったのだ。
・・・私のせいでこうなってしまったのだ。
そのことが分かった瞬間私は、”大切な存在というものを作ってはいけないんだ”ということを感じた。
だって、私はどこにいようが嫌がらせや、いじめを受ける。
その時私と仲がいい人がいたら・・・、
今回みたいに私のことを無理にかばってくれて最終的にはその子にも害が及んでしまう。
そして私のように悲しむ人が増えてしまうから。
その後私は、歩ちゃんに
「私のことをかばってくれてありがとう。
でも、そのせいで歩ちゃんまで被害に合わせちゃって本当にごめん。」
とメッセージを送った。
そして私は今度こそLAINのアプリを閉じ、スマホも閉じた。
私の心は、みんなからの言葉でボロボロに傷ついていて、そして歩ちゃんも被害を与えてしまった苦しみがあった。
いつも通りに起きた私がいつもと少し違う言葉を発した。
空には灰色の雲が広がっていて、気温もいつもより低く、鳥肌が立つほどだった。
曇りの日といえば・・・。
私が、学校で友達と話したり、先生と話したりするときに作り笑いしているようになったきっかけになる出来事があったのも今日みたいな曇りの日だった。
ちょうど去年の今頃、もう少しで小学校を卒業するという時期だった。
私はそんなとき一番仲が良いいと思っていたグループに
『優笑は八方美人だし、よく自慢してくるし、ほんとにうざいよね。はやくこのグループからいなくなってほしいわ。』
『たしかに!マジでめざわりだよね。』
『本当にうちらと仲がいいって思ってるの、バカすぎて笑えてくるんだけど』
『その気持ちめっちゃわかるんだけど!』
などと、好き勝手に悪口を言っているところを聞いてしまった。
私はその時の怖さを今も昨日のように覚えているし、あの時のことを思い出すと泣きたくなる。
あの時は怖くて、心臓のあたりがズキズキして、そしてみんなへのいらだちも出てきて、泣きたくなくても涙が出てきて、
止まらなくて、人のいない屋上の入り口まで走っていって、思いっきり泣いた。
そして泣きながら、
『なんでっ、、どうしてっ。
いつもみんな私がいれば最強だねって言ってくれたじゃん。
ずっと仲良くしようねって、大好きだよって、言ってくれたじゃん。
全部・・・、全部嘘だったんだ・・・。
あのみんなで笑いあった時の笑顔も、私の誕生日の日にみんなで撮った写真の笑顔も全部嘘だったの・・・?
私は今までみんなで出かけたとき、邪魔者だったの⁉めざわりだったの⁉
私は普通に生活していただけなのにっ。
普通に楽しく過ごしていただけなのにっ。
なんでっ・・・。なんでっ・・・。
こんなのおかしいよ。
みんなと楽しんで、笑って、そうやってみんなと同じことをしてきたのにっ、
なんで私だけ嫌われなくちゃいけなかったの?
どうして周りは楽しんで、笑っていても嫌われないの?
――――ひどすぎるっ。。』
そうやっていっぱい愚痴を言った。
でも、いくら言っても怖さも、心臓当たりの痛みも、いらだちも、涙も、全く止まらなかった。
むしろ、愚痴を言ってグループみんなでの思い出を思い出すたびにひどくなって、
風邪をひいたり、水の中に顔を入れてずっと息を止めているときよりも苦しくなっていった。
・・・もちろんそうやって泣いて、泣きはらして、家に帰ってまた泣いて―――。
と、どれだけつらい思いをしても、あの時言っていた悪口を本人に聞かれていたとも知らないグループのみんなは謝ろうとはしてこない。
それどころか、次の日もその次の日も私と一緒にしゃべっては笑いあった。
でも、私にはその笑顔も、言葉一つ一つも恐怖でしかなかった。
そして、その問題は解決せず卒業するときになった。
卒業式当日。
・・・私はみんなが”最後の思い出”といって思い出を作っている間、人といるのが怖くなって、先生に挨拶をしてすぐに家に帰った。
だから、それ以来笑うのが怖くなってしまい、作り笑いをするようになった。
あとは・・・人のことを信用することが簡単にできなくなっていた。
だから唯一、信用している歩ちゃん以外とは気軽に話せないし、頼み事もできなかった。
・・・・・そんな苦しい思い出がある私は、
『今日は何か、いつもと違うことが起きる。』
ということを直感的に感じた。
そのせいか、今日は身支度が早く終わってしまい普段ならできない”暇な時間”ができてしまった。
十分後、ようやく家を出るいつもの時間になり家を飛びだした。
いつも通りの道・・・なのに今日は”知らない街に来た時の不安”のようなものがあった。
そして気づくといつの間にか
「ちょっと怖い。。」
と、声を出していた。
私は、怖さの消えないまま学校に着いた。
いつもは普通に入っている教室もなぜか少し入るのが怖く遠慮してしまった。
でも、扉の前で立ち止まっていても、逆に周りから不思議な目を向けられる気がして仕方なく教室へと一歩踏み出した。
ただ、そこからは別に何事もなかった。
朝、いつもと変わらず歩ちゃんに
「おはよ」
というと歩ちゃんも
「おはよっ!」
と笑顔で返してくれた。そしてその後の会話も問題なく進んだ。
そんな感じで、四時間目もいつも通りに終えた。
私はだんだん『気のせいだったのかな。』と思い始めてきていた。
でも、そう思えていけたのは昼休みまでだった・・・。
昼休み。
私はいつもと変わらず、先生に呼ばれた。
今日は、会議室Aに来るようにと言われていたので、今そこに向かっている。
会議室Aは私の教室からやや離れていて怖いくらい生徒が全くいなかった。
「失礼します。」
そういうと珍しく先生はもう中にいて、
「おお、優笑。ここに座ってくれるかな。」
と言った。
先生の意味深な言葉を聞いた瞬間、『ドックン・・』ど心臓が嫌な音を立てた。
やっぱり今日の朝の直感は間違っていなかったんだ。
そう思い、私はやや震えた声で
「はい。分かりました。」
と返事をし、先生と向かい合っておかれている椅子に座った。
私が座ると先生は
「最近学校はどうかな?」
と何かを見るような目、先生がいう前に自分から言ってほしいとでもいうような目を私に向けながら言った。
多分、今は何か変なことを考えていうよりも先生の言葉に沿ったはっきりとしたことを返したほうがいいだろうと思い、
「えと、、・・・・・楽しい、です。」
といった。でも、自分が思っているよりも緊張していて、怖がっているのだろう。
歯切れが悪くなってしまった。
「・・・、」
「・・・・・?」
先生はそのあと何も言わず、でも私を見る目は変わっていなくて、私も黙るしかなかった。
でも、本題はなんだろう。
私は沈黙の中、一つのハテナが浮かんでしまった。
『本当になにかしたっけ、?』
どうしても、私は自分が何をしたかはっきりとは分からなかった。
・・・だけど、もし心当たりがあるとしたら。
一つだけ頭の中に浮かぶことがあった。
数分の沈黙が続き、それに耐えられなくなった私は、
「先生に何かお願いされたことの中・・・で、何かしっかり出来ていないことがあったりしましたか?、、」
と心当たりがあったことを話した。
すると先生は、少し悲しそうな、そして絶望したというような目を向けた。
私は何も言われていないのに、なぜが悲しくなってきた。
そう一人で悲しくなっていると急に空気が揺れた。
「そうじゃないんだよな・・・。」
急に何を言うのかと思ったら、、先生はそう口にした。
『え、、そういわれても。私本当に何をしたんだろう。』
私はどんどんわからなくなっていった。
そしてまた沈黙が流れた。
『・・・気まずい。こうなるなら言わなければよかったな。』
と私は反省した。
何分経ったかわからない。
ずっと沈黙と気まずさが流れていると先生がその沈黙と気まずさを破るかのように口を開いた。
「優笑は、友達をどう思ってる?」
先生の太く、そして低い声、あとは私を見ている先生の目はものすごく迫力があった。
いつもなら冷静に考えその場にあった返事を返せるかもしれない。
だけど、今は自分でもわかるほど頭がごちゃごちゃになっていた。
『なんて返そう。友達か・・・。友達、友達、、・・・。あっ!』
とっさに唯一の友達の歩ちゃんのことだと判断し、
「やっ、優しい人だと、思います。」
そう答えた。
・・・また歯切れが悪くなってしまった。
心の中で『もう沈黙が流れませんように。。もう気まずくなりませんように。。』
と祈りながら先生を見ると、思いのほか先生は腕を組み、何かを考えていた。
そしてふっと私のほうをまた見た。
その先生の目はもうさっきまでの目ではなくなっていた。
―――複雑そうな目だった。
先生は静かに言った。
「優笑。昨日な、先生の所に男子が二人と女子が三人ほど来て、”優笑がいつもいじめてきて、、だから助けてください”って
言われたんだ。
・・・・・私は正直に言ってほしい。
本当なのか?」
―――――っ!!!
私は驚きと動揺を隠せなかった。
『”私がいじめる”っ?
いじめみたいなことをされたことがあって、いじめのつらさをよく理解している私が?
そんなこと・・・』
「そんなこと、するわけないじゃないですかっ。」
気づいたらそう口にしていた。
先生は困ったように眉毛を下げて、
「私もそうだと信じていたい気持ちもあるよ。
だけど、その男子と女子が私のところに来てくれたという事実は変わりないんだ。」
といった。
そこで私はまた疑問が浮かんだ。
・・・先生はさっきからいじめの報告をしに行った人のことを”男子、女子”と言っている。
なんでだろう。
そう思い、私は先生に聞いてみた。
「先生。その男子と女子って・・・誰、ですか?」
すると先生は
「すまんな。それはその子たちに名前をだすなと口止めされている以上私は何も言えないんだ。」
そういった。
でも・・・私は何となく予想がついていた。
”あの、昔私の悪口をいっていたグループ”
何人もいたあのグループは、受験をして違う中学校に行く子もいたものの、ちょうど男子が二人と女子が三人、この中学校に入学していた。
だけど、私は
「そうですか・・・。分かりました。」
と答えた。
すると、『話がうまく途切れたこの時を待っていました!』とでもいうように
「キーンコーンカーンコーン・・・」
と昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「教室、戻ろうか。」
そう先生に言われ、
「はい。」
とそっけなく答えた。
なんだろう・・・。
すごく、イライラする。でも爆発的な感じじゃない。
静かな感じ。でも、ものすごく熱く燃えている炎のようなイラつき。
自分ではあまり気づいていなかったけど、心の中で、
『なんでまた、そうやって良くわからないことをして人をいじめようとするの?』
って、
『どうして、先生を味方につけて先生から私への信頼みたいなのも一緒に引き裂こうとするの?』
ってムカついてた。
――――――私、もうあのグループと距離を取って、もう何も言われず、どちらも嫌な思いをしなくて済むようにしたのに。なんでまた、私のことを追いかけて何かしてこようとするんだろう。
私、何か間違ってたのかな・・・。
そんな気持ちのまま、教室に戻った。
そして帰りの会の時、先生は私に
「来年になってもいいから、”自分が悪かった”って思ったら先生のところに来てくれ。
ただ、もう人に嫌がられそうなことはしないでな。」
・・・そういわれた。
私は、くぎを刺された気分になった。
まあ、そうなりますよね。
世の中は絶対にやられたといっている人のほうを信じる。
つまり、先生は私の敵であるということになる。
それは、”嘘をつかれていたとしても。”
私がいじめたという嘘の情報であっても、変わらない。
この世界はそういうものなんだろう・・・、
そして迎えた放課後。
部活に行くと、みんな私を避けていった・・・気がした。
すると近くから、
「ねぇ、ねぇ、あの子じゃない?」
「なにが?」
「あの、緑さんとかをいじめたっていう。」
「あぁ!たしかにそうかも。」
「かわいそうだよね。緑さんいろんな人に”助けてほしい”って訴えてたらしいし。」
「うそ。そんなに?やばすぎじゃん。」
「バスケ部の子たちも言わないだけで、いじめられてるのかもしれないよね。」
「うわ。かわいそー。」
という声が聞こえた。
・・・どれだけ面倒なんだよ。
ひきょうにも程がある。
自分たちのことを信じてもらうためにここまでして仲間を増やして、。
そもそも、あそこのグループと関わってもないのにどうすればいじめられるっていうの?
でも、”嘘情報。勝手に、人工的に考えられた嘘の話。”とは全く知らない人は、そうやって嘘の情報に対して、
どんどん妄想を広げていっている。そして、どんどん私のことを”やばい子”とか”人をいじめる子”とかって言い、悪いモノ扱いしていく。
やっぱり、あの子たちが考えることは恐怖なことばかりだ。
そして、その恐怖は家に帰っても続いた。
家に帰り、いつものようにリビングに転がっている碧唯のランドセルを見て、サッカーに行ったことを確認し自分の部屋に行き、その日はリュックを置いてスマホを触った。
私のスマホはLAINやカレンダーのアプリやメモのアプリなどといった最低限のものしか入っていない。
その中でまともに使うことがあるのがLAINだけど、個人で連絡先を交換しているのが六人とグループLAINが一つ。
それも個人で連絡先を交換している人は、お父さん、お母さん、碧唯、おばあちゃん、おじいちゃんの血のつながりのある人と唯一心を許している歩ちゃんだけだ。
そしてグループLAINも、”一応入っている程度”のクラスのグループだけだ。
だから、対してスマホは開かない。
多くて二日に一回程度くらい。
だけど、今日はクラスLAINで何か言われてるかも知らないと思い気になってスマホを開き、そしてLAINのアイコンをみた。
すると、怖いくらいのスピードで通知の数が増えていっていた。
『何を話しているんだろう。』
『何か私のことを話しているのかもしれない。』
私は、はやく何が起きているのか知りたかった。
だけど、それ以上に
”自分がもっと傷つくかもしれない。”
という気持ちが大きく、自分が怖さでダメになってしまうのを恐れてしまっていた。
だけど、怖さのせいにして前に進まないと何もわからない。
そう思い、何分も決意を固められるまで待ち、自分でもわかるほどぶるぶると震えている手でLAINのアイコンをタップした。
すると、予想通りクラスLAINがすごいことになっていた。
多分今の私の目は見開かれ、恐怖で固まっていると思う。
そして、最後の勇気を出し、みんなのメッセージを読み始めた。
【みんな、あの優笑の噂、聞いた?】
【うん。聞いた聞いた!】
【私も聞いたよー!】
【やばい・・・よね、】
【たしかに、、びっくりした】
【あんな子だったんだね。】
【ね、そんなことする子だって知らなかった。】
【だよね、】
【うちらの前ではいい子だったよね。】
【うん。】
【先生にも好かれてたよね。】
【表と裏ありすぎじゃない⁉】
【ね、怖すぎだわ。】
【待って、今気づいたけど、このグループに優笑もいるよ?】
【え、あ、たしかに。】
【でも、学年に広まってることだし今更・・・って感じじゃない?】
・・・ここまで読んで、私はクラクラしてきた。
やっぱり、みんなそうなるよね。
誰も私の味方になるはずないよね。。
そう現実を突きつけられたように感じた。
そして、今もずっと通知が来ているけれど、
”これ以上見ても意味がない。同じようなことを言われているだけだろう。”
と思いLAINを閉じようとして閉じるためのボタンを押した。
だけどなぜか運悪く最新のメッセージを見るボタンを押してしまい、勝手に画面が下から上へと流れていく。
「・・・最悪だ。もっと私のことを悪者だと思いこみ、ありもしないへんな妄想を広げている会話をみたって、心臓がえぐられるような苦しさを味わうだけなのに。」
そう、私の苦しみの言葉は冷たい空気の中に消えていった。
そして、画面が止まった、多分今画面を見ると、さらに悪者視された私の話をしているのだろう。
でも・・・画面を閉じるにしろ、何をするにしろ、画面は見えてしまう。
私は、できるだけ見えないように細心の注意をはらいながらLAINを閉じようとした。
だけどやっぱり画面を見てしまった。
しかし、そこでは思いもよらないことが話されていて私は息をのんだ。
「なに、これ、・・・。」
たった今みんなが話していたのはなぜか歩ちゃんのことだったのだ。
「どうしてこうなったの・・・⁉」
私は驚きで、自分の苦しみを忘れるほどだった。
そして無意識に少し前の会話を見て、なぜ私の話から歩ちゃんの話に移り変わってしまったのか、その原因を探していた。
―――――その後、私が見つけた原因は想像をはるかに超えるものだった。
【優笑ちゃんはそんな子じゃない。
しかもどんどん変な妄想をするのはおかしいと思う!】
というものだった。
つまり、歩ちゃんは私をかばったせいでこうなってしまったのだ。
・・・私のせいでこうなってしまったのだ。
そのことが分かった瞬間私は、”大切な存在というものを作ってはいけないんだ”ということを感じた。
だって、私はどこにいようが嫌がらせや、いじめを受ける。
その時私と仲がいい人がいたら・・・、
今回みたいに私のことを無理にかばってくれて最終的にはその子にも害が及んでしまう。
そして私のように悲しむ人が増えてしまうから。
その後私は、歩ちゃんに
「私のことをかばってくれてありがとう。
でも、そのせいで歩ちゃんまで被害に合わせちゃって本当にごめん。」
とメッセージを送った。
そして私は今度こそLAINのアプリを閉じ、スマホも閉じた。
私の心は、みんなからの言葉でボロボロに傷ついていて、そして歩ちゃんも被害を与えてしまった苦しみがあった。