―――――「話があるんだけど、いいかな?」
私がそういうとお母さんは丸かった目を一層丸くさせ、
「え・・・ええ、いいわよ。」
と答えてくれた。
「ありがとう!」
リビングのテーブルに向き合って座った。
こうやって真剣に話をするのは何年ぶりだろう・・・。
ずっと、話していなかったから家族でいつも同じ家にいるはずなのに緊張してくる。
そんな中、私は口を開き話始めた。
「お母さん、この間はごめん。
覚えているか分からないけど、少し前に夜ご飯作れるのかって言うことできれちゃって、今は本当に悪かったって思ってる。
碧唯も・・・怖い思いさせてごめん。
私、今まで何にも話してこなかったけど、家族なんだししっかり仲良くしていきたいからしっかり話すね。
今から一年とちょっと前のことなんだけど、小学校の卒業式の少し前の日に仲が良かったグループにかげで悪口というか嫌味みたいなのを言われて、なんか人って外側はかりそめの姿だから本当はみんなして私のことを悪く言ってるんじゃないかって
思ったりで何を考えてるか分からないからっていって怖くなって、ずっと人間恐怖症みたいになってたんだ。
それで、ほとんど人と関わらなくなって、いつの間にか家族とか友達との間に分厚い壁を作ってた。
だから、あの時も”なんでわかってくれないんだ”って、本当は今の私が人とのことでどれだけ苦しい思いをしているのにそんなことも知らないのに”あなたのため”って言われたくなくて・・・
本当は・・・本当はずっと当たり前のように朝ごはんを作ったりするのも嫌だった。
私にとってはいつもの”あたりまえ”がすごく苦しかった。」
「優笑・・・。」
お母さんは唇をかんで何か言いたそうにしていた。
でも、私は言葉を続ける。
「だけどね、私しっかりそのこととは向き合わないといけないって思って、一人で頑張ってた。
そしたら味方だって言ってくれる人が二人も現れてくれたんだ。
久しぶりに一人で悩んでいたことが周りに相談できて嬉しかった。
でね、そのうちの一人に”自分と向き合ってみることもいいよ”みたいに言ってもらって・・・。
それで、一日だけ自分と向き合って考えてみたの。
どうして私はこうなってるのか・・・みたいな。
そしたら、今まで私が心の中で見て見ぬふりをしていた本当の気持ちがわかってきて、その私の気持ちに押されて、私の味方と一緒に一歩進んでみようって強く思い始めた。
で、いままでいろいろあって心が折れかけたけど助け合って頑張っていたらちょうど今日解決できたんだ。
私、本当に嬉しかった。
”自分が苦労して頑張ってきてよかった”って思えたから。
だから、今の私なら家族ともしっかり話せるかもしれないって思ったの。
実は味方のうちの一人の子に”家族とはすれ違いが起きてしまっているのかもしれない”って言われてたから、そのすれ違いを今日ならしっかり話し合って見つけて、解決できるって思った。
だから、お母さん、碧唯、私について思ってること話してくれない?
前に言い合っちゃったとき、私は途中で自分の部屋に逃げちゃったけど今度は最後までしっかり聞くから。
それで、すれ違いをなくしてしっかりまた仲良くしたいから―――――。」
私が話し終えても、お母さんはずっと下を向いていた。
だけど、しばらくすると顔を上げた。
「―――――ええ、そうね。
話し合って、相手と向き合わないと何も変われないわね。
私はあの優笑がすごく怒った日、”優笑に嫌われていたのかもしれない”思ったの。
あと、”私の子供なのに本当は何も知らないのかもしれない”って思って自分自身を恨めしく思った。
しかも、優笑があんなに苦しそうな顔をしてるのを今まで見たことがなかったから、”私は優笑と関わらない方が・・・距離を取った方がいいのかもしれない”って考えて、できるだけ会わないようにしてた。
でも、今の優笑の話を聞いて思ったわ。
私はしっかり優笑の気持ちを聞いてあげるべきだった。
私も優笑と同じように逃げちゃっていたのかもしれないわ。
本当にごめんなさいね。
お母さんなのに何もしてあげられず、逆に苦しめてしまっていて・・・。」
「・・・僕も、ごめん。
僕、お姉ちゃんがなんか困ってるみたいだなって思ったけど、あの時すごくお姉ちゃんが怒ってるのを見て怖かったから話しかけられなかったし、お姉ちゃんに何か話しかけられてもうまく話せなかった。
お姉ちゃんごめん・・・。
ごめんなさい・・・。
本当は、もっとお話ししたい。
お姉ちゃんの話聞きたい。
サッカーの話もしたい。
う、うえーん・・・!」
お母さんも碧唯も泣き方は全然違うけど二人して泣いてしまった。
私も本当にいろんなすれ違いがあったんだってわかって、いろんな後悔のせいの悔し涙と、家族とようやく本音で話し合うことができた喜びや嬉しさで泣いてしまう。
すると碧唯が私の方に駆け寄ってきて”ギュー”っと抱き着いてきた。
まだ、学校から帰って制服のままで制服に涙がついてしまう。
でもそんなのどうでもよかった。
私はただただ泣きながらも笑顔で抱き着き返す。
お母さんも後からきて私たちをまとめて抱きしめてくれた。
大人、中学生、小学生関係なく泣いて抱きしめ合う。
すごく心が温かかった。
やっぱり、家族はかけがえのないものだなと改めて思った。
・・・・・・というか、今まで忘れていたその家族に対しての気持ちがよみがえってきた。
『お母さん、碧唯、本当に今までごめん。
これからはもう一生こんなことが起きないようにする。
そして二人と楽しい時間をたくさん、今までの分まで楽しもうね。
本当は・・・、本当は私お母さんや碧唯とうまく関われなくて、お母さんと仲良く歩いてる子とか兄弟で一緒に遊んだりしている子を見るとうらやましくて仕方がなかったから。
私にとってのお母さん、弟、お父さんはたった一つの家族。
大好きな家族だから。
これからは、また改めてよろしくね。』
恥ずかしくて口にはできなかったけど、心の中でしっかりと言った。
◇
一通り泣いて、少しずつ涙が収まってから私は顔をまたお母さんと碧唯の方に向けた。
「お母さん、碧唯。
また、これからよろしくね!」
「ええ、もちろんよ!
これからはすれ違いがないようにしましょう!」
「うん!
お姉ちゃん、大好き!」
そうして、壁が消え新しくなった世界で私は心からの笑みをこぼした。
◇
「私、実はこの後、私と一緒にいて支えてくれてた人とお疲れ様会するんだ。
行ってきても、いい・・・かな?」
私はこんな時に言うのが少し気まずかったけど、しっかり話した。
すると、
「もちろんよ!
しっかりお礼、言いなさいね!
あと、しっかり楽しんできなさい!」
そういってくれた。
こんな風に笑顔で素直に話すのは普通の家族にとっては当たり前かもしれない。
でも私はそんな当たり前なことができてすごく嬉しかった。
「分かった!
ありがとう。
服、着替えたら行くね!」
そう返事をして私は軽い足取りで部屋に向かった。
すぐに着替えを済ませ、空君にメッセージを送る。
【お待たせ!
無事お母さんたちとしっかり話せたよ!】
【どこで待ち合わせする?】
すると、すぐに返信が来る。
・・・やっぱり早い。
なんでこんなにもメッセージを見るのが早く、返信も早いんだろうと不思議に思いながらも、メッセージを読んだ。
【ほんと!?
頑張ったね!
ほんとに優笑はすごいね・・・!】
【前にいろいろ話したあの公園のベンチとかはどうかな・・・?】
【了解!
すぐに行くね!】
私はそう返信すると玄関に行き靴を履き、
「行ってくるねー!」
といってみた。
すると、
「行ってらっしゃい!
気を付けてね!」
と言ってわざわざ玄関まで来てくれた。
なんだかすごく幼くなった気がする。
でも、嫌な気持ちはせず、素直に嬉しかった。
「ありがとう!
行ってきます!」
そう言ってドアを開けた。
外はまだ肌寒かった。
”空君にこんな寒い中待たせると悪いな”と思い歩くスピードを速めた。
約束のベンチが見えるとそこにはもう人影があった。
「空君、待たせてごめんね。」
私は駆け足でそこに向かうとそう言った。
「ううん。
俺も今来たところ。
寒かったでしょ?・・・はい!
ココア・・・好き?」
そう言ってココアを手渡ししてくれた。
きっとここに来る途中買ってきてくれたんだろう。
空君がなんか紳士に見えてきた。
「うん!大好きだよ!
ありがとう空君!」
そう言って受け取った。
そういえば・・・
「空君の飲み物は・・・?」
「あー、買ってない。
でも、俺は厚めの服着てるから大丈夫!」
と言った。
でも、どう見てもそこまで厚い服を着ているようには見えなかった。
きっと”気を使わせないように・・・”とかって考えてくれているんだろう。
私は、「ちょっと待ってて!」と言ってきた道をほんの少し引き返した。
「あった・・・!」
そう言って私はあるものを買って公園に走って戻った。
「ごめん待たせちゃって、」
「ううん。全然俺は大丈夫!
それより大丈夫?どうしたの?」
そういってくれる。
「空君、本当に優しいね。
はい!これ!
空君が好きだと良いな!」
私はさっき買ってきたものを渡した。
「うわぁ!
ありがとう!
俺のために・・・?
すっごく嬉しい!」
私が空君に渡したのは空君にさっき私がもらったものと同じココアだ。
「喜んでくれて良かった!」
そういうと、急に
「あっ・・・!」
と空君が声を上げた。
「どうしたの?」
「見てみて!」
空君が見せてくれたのはココアのパッケージの一部だった。
そして、私の手を指している・・・?
そこには茶色のくまさんが違う色の手を握っている絵だった。
でも、その手より先は描かれていない。
つまりなにかと合わせると一つの絵になる・・・みたいなやつのはずだ。
まっ、まさか・・・!
指された方の手に持っているココアのパッケージを見てみた。
そこには、
「すごい!
空君の絵と繋がる!」
そう。
私の絵の続きの絵が描いてあった。
なんだか、それを見て喜んでいる空君を見ると紳士な空君が無邪気なかわいい空君に見えた。
そして私は空君の歩いていく方に合わせて歩いて行った。
すると、ファミレスに到着した。
ここはたしか、普通のファミレスだけど最近できたからなんか少し変わっていると評判なところだった。
なにが変わっているのかは知らないけど・・・。
「優笑の意見も聞かないで勝手につれてきてごめん。
俺ら中学生だからあんまお金が高い所は行けないけど、ここならいいかなって思って。
どう??」
「うん!めっちゃいい!
ありがとう。
私もここ、言ってみたいなって思ってたから嬉しいよ!」
「そっか!それならよかった!」
そういうと私たちは中に入っていった。
本当に店内はいろいろすごかった。
大人っぽい感じで、料理の種類は多くて・・・本当にみんなが”変わっている”と言っていた意味が分かった。
料理とかドリンクとかが一通りそろうと静かに
「「お疲れさま!」」
といって、二人だけのお疲れ様会が始まった。
時間が過ぎるのはあっという間で、すぐ遅い時間になってしまった。
「美味しかったね!」
「ね!」
テーブルには空になったお皿が二つ並んでいる。
お会計を済ませ、外に出る。
店内が料理のこってりしたようなにおいだったからか、すっきりとした空気が気持ちよく感じられる。
本当に、楽しかった。
もう少しでお別れというのが寂しくなってくるくらいだ。
そんなことは今まで歩ちゃん意外ではそんな気持ちになったことがなかったから、それも新鮮で甘酸っぱい気持ちになった。
すると不意に、どこからか音楽が聞こえてきた。
「―――――君以外にも、おんなじ思いの人はたくさんいるんだよ。
心は見えないから何もわからないけど、絶対におんなじ思いをしている人はたくさんいる。
みんなで頑張ろうよ!前を向いて一歩ずつ―――――。」
そんな歌詞の曲だった。
・・・おんなじ思いの人はたくさんいる。
その言葉が耳に残ってしまう。
私のようにいじめられたり、周りの人とのすれ違いが合ったりして苦しんでいる子はほかにもいるのかな?
もしかしたら、私のように一歩を踏み出せずにいるかもしれない。
私は一つ”やってみたいな”と思うことができた。
「私・・・自分の好きな小説で前の私のように苦しんでる人を救いたい!
笑顔にしたい。自分だけじゃないって伝えたい!
そして、そういう子に希望をもってほしい!」
そう言葉にしていた。
空君は、『急にどうしたの?』とも、『どういうこと?』とも言わずに
「うん。すごくいいと思う。
優笑にしかできないことだね!
絶対うまくいくよ!本当にやってみたら?
もし、その小説が売り出されたら俺が一番に買うよ!
楽しみにしてるな!」
と笑って言ってくれた。
「うん!」
私には初めて夢ができた―――――。
私がそういうとお母さんは丸かった目を一層丸くさせ、
「え・・・ええ、いいわよ。」
と答えてくれた。
「ありがとう!」
リビングのテーブルに向き合って座った。
こうやって真剣に話をするのは何年ぶりだろう・・・。
ずっと、話していなかったから家族でいつも同じ家にいるはずなのに緊張してくる。
そんな中、私は口を開き話始めた。
「お母さん、この間はごめん。
覚えているか分からないけど、少し前に夜ご飯作れるのかって言うことできれちゃって、今は本当に悪かったって思ってる。
碧唯も・・・怖い思いさせてごめん。
私、今まで何にも話してこなかったけど、家族なんだししっかり仲良くしていきたいからしっかり話すね。
今から一年とちょっと前のことなんだけど、小学校の卒業式の少し前の日に仲が良かったグループにかげで悪口というか嫌味みたいなのを言われて、なんか人って外側はかりそめの姿だから本当はみんなして私のことを悪く言ってるんじゃないかって
思ったりで何を考えてるか分からないからっていって怖くなって、ずっと人間恐怖症みたいになってたんだ。
それで、ほとんど人と関わらなくなって、いつの間にか家族とか友達との間に分厚い壁を作ってた。
だから、あの時も”なんでわかってくれないんだ”って、本当は今の私が人とのことでどれだけ苦しい思いをしているのにそんなことも知らないのに”あなたのため”って言われたくなくて・・・
本当は・・・本当はずっと当たり前のように朝ごはんを作ったりするのも嫌だった。
私にとってはいつもの”あたりまえ”がすごく苦しかった。」
「優笑・・・。」
お母さんは唇をかんで何か言いたそうにしていた。
でも、私は言葉を続ける。
「だけどね、私しっかりそのこととは向き合わないといけないって思って、一人で頑張ってた。
そしたら味方だって言ってくれる人が二人も現れてくれたんだ。
久しぶりに一人で悩んでいたことが周りに相談できて嬉しかった。
でね、そのうちの一人に”自分と向き合ってみることもいいよ”みたいに言ってもらって・・・。
それで、一日だけ自分と向き合って考えてみたの。
どうして私はこうなってるのか・・・みたいな。
そしたら、今まで私が心の中で見て見ぬふりをしていた本当の気持ちがわかってきて、その私の気持ちに押されて、私の味方と一緒に一歩進んでみようって強く思い始めた。
で、いままでいろいろあって心が折れかけたけど助け合って頑張っていたらちょうど今日解決できたんだ。
私、本当に嬉しかった。
”自分が苦労して頑張ってきてよかった”って思えたから。
だから、今の私なら家族ともしっかり話せるかもしれないって思ったの。
実は味方のうちの一人の子に”家族とはすれ違いが起きてしまっているのかもしれない”って言われてたから、そのすれ違いを今日ならしっかり話し合って見つけて、解決できるって思った。
だから、お母さん、碧唯、私について思ってること話してくれない?
前に言い合っちゃったとき、私は途中で自分の部屋に逃げちゃったけど今度は最後までしっかり聞くから。
それで、すれ違いをなくしてしっかりまた仲良くしたいから―――――。」
私が話し終えても、お母さんはずっと下を向いていた。
だけど、しばらくすると顔を上げた。
「―――――ええ、そうね。
話し合って、相手と向き合わないと何も変われないわね。
私はあの優笑がすごく怒った日、”優笑に嫌われていたのかもしれない”思ったの。
あと、”私の子供なのに本当は何も知らないのかもしれない”って思って自分自身を恨めしく思った。
しかも、優笑があんなに苦しそうな顔をしてるのを今まで見たことがなかったから、”私は優笑と関わらない方が・・・距離を取った方がいいのかもしれない”って考えて、できるだけ会わないようにしてた。
でも、今の優笑の話を聞いて思ったわ。
私はしっかり優笑の気持ちを聞いてあげるべきだった。
私も優笑と同じように逃げちゃっていたのかもしれないわ。
本当にごめんなさいね。
お母さんなのに何もしてあげられず、逆に苦しめてしまっていて・・・。」
「・・・僕も、ごめん。
僕、お姉ちゃんがなんか困ってるみたいだなって思ったけど、あの時すごくお姉ちゃんが怒ってるのを見て怖かったから話しかけられなかったし、お姉ちゃんに何か話しかけられてもうまく話せなかった。
お姉ちゃんごめん・・・。
ごめんなさい・・・。
本当は、もっとお話ししたい。
お姉ちゃんの話聞きたい。
サッカーの話もしたい。
う、うえーん・・・!」
お母さんも碧唯も泣き方は全然違うけど二人して泣いてしまった。
私も本当にいろんなすれ違いがあったんだってわかって、いろんな後悔のせいの悔し涙と、家族とようやく本音で話し合うことができた喜びや嬉しさで泣いてしまう。
すると碧唯が私の方に駆け寄ってきて”ギュー”っと抱き着いてきた。
まだ、学校から帰って制服のままで制服に涙がついてしまう。
でもそんなのどうでもよかった。
私はただただ泣きながらも笑顔で抱き着き返す。
お母さんも後からきて私たちをまとめて抱きしめてくれた。
大人、中学生、小学生関係なく泣いて抱きしめ合う。
すごく心が温かかった。
やっぱり、家族はかけがえのないものだなと改めて思った。
・・・・・・というか、今まで忘れていたその家族に対しての気持ちがよみがえってきた。
『お母さん、碧唯、本当に今までごめん。
これからはもう一生こんなことが起きないようにする。
そして二人と楽しい時間をたくさん、今までの分まで楽しもうね。
本当は・・・、本当は私お母さんや碧唯とうまく関われなくて、お母さんと仲良く歩いてる子とか兄弟で一緒に遊んだりしている子を見るとうらやましくて仕方がなかったから。
私にとってのお母さん、弟、お父さんはたった一つの家族。
大好きな家族だから。
これからは、また改めてよろしくね。』
恥ずかしくて口にはできなかったけど、心の中でしっかりと言った。
◇
一通り泣いて、少しずつ涙が収まってから私は顔をまたお母さんと碧唯の方に向けた。
「お母さん、碧唯。
また、これからよろしくね!」
「ええ、もちろんよ!
これからはすれ違いがないようにしましょう!」
「うん!
お姉ちゃん、大好き!」
そうして、壁が消え新しくなった世界で私は心からの笑みをこぼした。
◇
「私、実はこの後、私と一緒にいて支えてくれてた人とお疲れ様会するんだ。
行ってきても、いい・・・かな?」
私はこんな時に言うのが少し気まずかったけど、しっかり話した。
すると、
「もちろんよ!
しっかりお礼、言いなさいね!
あと、しっかり楽しんできなさい!」
そういってくれた。
こんな風に笑顔で素直に話すのは普通の家族にとっては当たり前かもしれない。
でも私はそんな当たり前なことができてすごく嬉しかった。
「分かった!
ありがとう。
服、着替えたら行くね!」
そう返事をして私は軽い足取りで部屋に向かった。
すぐに着替えを済ませ、空君にメッセージを送る。
【お待たせ!
無事お母さんたちとしっかり話せたよ!】
【どこで待ち合わせする?】
すると、すぐに返信が来る。
・・・やっぱり早い。
なんでこんなにもメッセージを見るのが早く、返信も早いんだろうと不思議に思いながらも、メッセージを読んだ。
【ほんと!?
頑張ったね!
ほんとに優笑はすごいね・・・!】
【前にいろいろ話したあの公園のベンチとかはどうかな・・・?】
【了解!
すぐに行くね!】
私はそう返信すると玄関に行き靴を履き、
「行ってくるねー!」
といってみた。
すると、
「行ってらっしゃい!
気を付けてね!」
と言ってわざわざ玄関まで来てくれた。
なんだかすごく幼くなった気がする。
でも、嫌な気持ちはせず、素直に嬉しかった。
「ありがとう!
行ってきます!」
そう言ってドアを開けた。
外はまだ肌寒かった。
”空君にこんな寒い中待たせると悪いな”と思い歩くスピードを速めた。
約束のベンチが見えるとそこにはもう人影があった。
「空君、待たせてごめんね。」
私は駆け足でそこに向かうとそう言った。
「ううん。
俺も今来たところ。
寒かったでしょ?・・・はい!
ココア・・・好き?」
そう言ってココアを手渡ししてくれた。
きっとここに来る途中買ってきてくれたんだろう。
空君がなんか紳士に見えてきた。
「うん!大好きだよ!
ありがとう空君!」
そう言って受け取った。
そういえば・・・
「空君の飲み物は・・・?」
「あー、買ってない。
でも、俺は厚めの服着てるから大丈夫!」
と言った。
でも、どう見てもそこまで厚い服を着ているようには見えなかった。
きっと”気を使わせないように・・・”とかって考えてくれているんだろう。
私は、「ちょっと待ってて!」と言ってきた道をほんの少し引き返した。
「あった・・・!」
そう言って私はあるものを買って公園に走って戻った。
「ごめん待たせちゃって、」
「ううん。全然俺は大丈夫!
それより大丈夫?どうしたの?」
そういってくれる。
「空君、本当に優しいね。
はい!これ!
空君が好きだと良いな!」
私はさっき買ってきたものを渡した。
「うわぁ!
ありがとう!
俺のために・・・?
すっごく嬉しい!」
私が空君に渡したのは空君にさっき私がもらったものと同じココアだ。
「喜んでくれて良かった!」
そういうと、急に
「あっ・・・!」
と空君が声を上げた。
「どうしたの?」
「見てみて!」
空君が見せてくれたのはココアのパッケージの一部だった。
そして、私の手を指している・・・?
そこには茶色のくまさんが違う色の手を握っている絵だった。
でも、その手より先は描かれていない。
つまりなにかと合わせると一つの絵になる・・・みたいなやつのはずだ。
まっ、まさか・・・!
指された方の手に持っているココアのパッケージを見てみた。
そこには、
「すごい!
空君の絵と繋がる!」
そう。
私の絵の続きの絵が描いてあった。
なんだか、それを見て喜んでいる空君を見ると紳士な空君が無邪気なかわいい空君に見えた。
そして私は空君の歩いていく方に合わせて歩いて行った。
すると、ファミレスに到着した。
ここはたしか、普通のファミレスだけど最近できたからなんか少し変わっていると評判なところだった。
なにが変わっているのかは知らないけど・・・。
「優笑の意見も聞かないで勝手につれてきてごめん。
俺ら中学生だからあんまお金が高い所は行けないけど、ここならいいかなって思って。
どう??」
「うん!めっちゃいい!
ありがとう。
私もここ、言ってみたいなって思ってたから嬉しいよ!」
「そっか!それならよかった!」
そういうと私たちは中に入っていった。
本当に店内はいろいろすごかった。
大人っぽい感じで、料理の種類は多くて・・・本当にみんなが”変わっている”と言っていた意味が分かった。
料理とかドリンクとかが一通りそろうと静かに
「「お疲れさま!」」
といって、二人だけのお疲れ様会が始まった。
時間が過ぎるのはあっという間で、すぐ遅い時間になってしまった。
「美味しかったね!」
「ね!」
テーブルには空になったお皿が二つ並んでいる。
お会計を済ませ、外に出る。
店内が料理のこってりしたようなにおいだったからか、すっきりとした空気が気持ちよく感じられる。
本当に、楽しかった。
もう少しでお別れというのが寂しくなってくるくらいだ。
そんなことは今まで歩ちゃん意外ではそんな気持ちになったことがなかったから、それも新鮮で甘酸っぱい気持ちになった。
すると不意に、どこからか音楽が聞こえてきた。
「―――――君以外にも、おんなじ思いの人はたくさんいるんだよ。
心は見えないから何もわからないけど、絶対におんなじ思いをしている人はたくさんいる。
みんなで頑張ろうよ!前を向いて一歩ずつ―――――。」
そんな歌詞の曲だった。
・・・おんなじ思いの人はたくさんいる。
その言葉が耳に残ってしまう。
私のようにいじめられたり、周りの人とのすれ違いが合ったりして苦しんでいる子はほかにもいるのかな?
もしかしたら、私のように一歩を踏み出せずにいるかもしれない。
私は一つ”やってみたいな”と思うことができた。
「私・・・自分の好きな小説で前の私のように苦しんでる人を救いたい!
笑顔にしたい。自分だけじゃないって伝えたい!
そして、そういう子に希望をもってほしい!」
そう言葉にしていた。
空君は、『急にどうしたの?』とも、『どういうこと?』とも言わずに
「うん。すごくいいと思う。
優笑にしかできないことだね!
絶対うまくいくよ!本当にやってみたら?
もし、その小説が売り出されたら俺が一番に買うよ!
楽しみにしてるな!」
と笑って言ってくれた。
「うん!」
私には初めて夢ができた―――――。