―――――キーンコーンカーンコーン・・・。

 部活動開始のチャイムが鳴った。
 私は真っ先に活動場所に行った。
 すると・・・、緑ちゃんたちに遭遇してしまった。
「優笑・・・!?」
 どうやら、私はけがのせいで帰ったと思っていたらしい。
 私を見た瞬間、あからさまに驚きの声を上げ、みんなして目を丸くして固まっていた。
 私は、あまり次の作戦までは関わりたくなかったため何も言わず通り過ぎた。
 すると、うしろからグループの一人が
「優笑・・・!」
 と今にもつかみかかってきそうなぐらいの勢いで追いかけてきた。
 だけど、
「だめ・・・。
 ここで変なことしたら誰かに先生に言われるよ。
 だからやめて。」
 そう緑ちゃんに言われると、その人はピタリと動きを止め”しぶしぶ・・・”と言った感じで戻っていった。
 ・・・・・・本当に緑ちゃんは悪い人だ。
 人目に付くところでは普通に過ごして、誰にも見えないところでは思いっきり悪意をはたらかせる。
 私は、緑ちゃんたちがいないことを確認し
「はぁー。」
 と息をはいた。
 すると広瀬君が
「優笑ー!」
 といってきた。
「広瀬君・・・!
 どうしたの?」
「いや、たまたま俺も活動場所に行こうとして通ったら、緑ちゃんたちと一緒にいるところを見てさ・・・。」
「そうだったんだ。
 でも、少し絡まれただけだから大丈夫!
 なにもされなかったし。」
「そっか、よかった。」
「うん。やっぱり緑ちゃんたちは悪い人だってわかった。」
「どうして・・・?
 やっぱり何かあったの?」
「何もなかったって言ったらうそになるけど、ほんとに大したことじゃないよ。
 ただそこで遭遇しちゃったの。
 でも私は、無視して通りすぐたんだよね。
 そしたら、グループの一人が追いかけてきたの。
 だけど緑ちゃんが、”人目があるところでそんなことをしたらいけない。”みたいなことを言って、そのままどっかに行っちゃったってことがあっただけ。」
「そうだったんだ。」
「うん。」
 そうして、その話は終わった。
 部活を終えて今日も広瀬君と帰る。
 すると、
「優笑、それでなんだけど、あの作戦いつどうやって実行する?」
 と広瀬君に言われた。
 私は考えてもなかったから答えられず、
「いつにしよっか・・・。」
 と、あやふやな感じで返してしまった。
「というか、俺授業中考えたんだ。
 優笑が”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”みたいに言ったことをさ、どうやって緑ちゃんたちに伝えるかを。
 で、思いついたのが先生にまず、
『優笑がこの間また緑ちゃんたちにいじめられて、すごく痣ができちゃったんです。』
 っていう。
 だけど先生はあまり信用してくれないと思うから、緑ちゃんたちに
『優笑がまた、緑ちゃんたちのグループにいじめられましたって言ったんだが、本当か?』
 って聞いてもらう。
 でも多分その時、緑ちゃんたちは『そんなことやってないです。』って否定すると思うんだ。
 それでそのあと緑ちゃんたちにまた優笑を呼び出してもらって、そのことを俺が先生に言って作戦決行・・・。
 みたいなのなんだ。
 どう・・?」
「うん。私はいいと思う。
 でも、先生にいつ話すの?
 あと、私が呼び出されたとき先生がいなかったらどうするの?」
「えっと・・・んー。」
 広瀬君は考えだしてしまった。
 と思ったら、
「先生にはあらかじめ
 ”また呼び出されるかもしれないので、しばらくの間昼休みは教室にいてもらう事ってできますか?”
 って聞くのはどうかな?
 先生に話すのは、お互い部活がない日の放課後とか?」
 と言ってきた。
 本当にどうしたらそんなにすぐ案が思いつくのだろう・・・。
 私は心底不思議に思いつつも、
「それならいいかもね。」
 と返した。
 でも、必ずうまくいくかなんてわからない。
 もしかしたら、昼休みじゃないときに呼び出されるかもしれないし、そもそも呼び出さないで何かあった時にタイミングを見て急に攻撃してくるかもしれない。
 私はそう考えて、やっぱり不安になってしまった。
 それを正直に広瀬君に伝えてみた。
「私さ、正直うまくいくか心配なんだよね。
 だって、必ずうまくいくかなんてわからないから。
 それに、私たちが思ってもないときに攻撃してくるかもしれないから。
 そう考えると、怖くって・・・。」
 そして、広瀬君を見上げてみた。
 広瀬君も
「まあ、そうだよね。
 俺も実は少し不安なんだ。
 これで失敗したら俺もどうすればいいかわからなくなるかもしれないって思ったから。
 だけど、思ったんだ。
 できないかもしれないって思ってたら本当にできないかもしれない。
 でも、
 ”俺たちなら絶対に大丈夫。絶対成功させられる。”
 って思ってたらきっと作戦通りじゃなくてもパッといいことが浮かんだりして乗り越えて、成功につなげられるかもしれないじゃん?
 だから、怖がらないで”絶対に成功させられる”ってことだけを考えようってね。」
「そっか・・・。」
 私は思った。

 ―――――確かにそうだ。
 きっとうまく予定通りに進まないと慌ててしまうけど、”絶対に成功させるんだ”って思っていたらきっとその思いのおかげでいい考えが浮かぶかもしれないって。
 そう素直に思えた。
 すると、「それに・・・」と広瀬君が言葉をつづけた。
「俺はなんでお母さんのことに気づいてあげられなかったんだろうって思ってた。
 俺が早く異変に気付いて、お母さんのことを支えてあげていたら何か変わっていたんじゃないかって思ってた。
 それで、すごく後悔したんだ。
 だから、今回しっかり優笑のことを支えて、成功に導けたら後悔がすべて消えるわけじゃないけど、少しはなんか和らぐというか何というか心の気持ち、自分を責めている気持ちが少なくなって、お母さんのようになってしまっている人を助けられるんだっていって、なにか変わるかもしれないから、何が何でも成功させようって思ったんだ。」
「そうなんだね・・・。」
「おう!
 だから今回のことは優笑一人の壁じゃなくって、俺と優笑二人の乗り越えないといけない壁なんだ。」
「そっか・・・!
 そうだね!
 そしたら改めて、力を合わせてがんばろ!
 もう私弱気にならないで成功させることだけを考える!」
「そうだな!
 よろしく優笑!」
 そういって、解散し家に戻った。
 すると「ピコン」とタイミングよくスマホが鳴った。
 送り主は広瀬君だった。

【俺、来週の木曜日が部活休みだった!】

【女バレーは休み??】

 私はすぐに、今度先生に話す日を決めるのだろう思い急いで予定表を確認した。
「来週の木曜日は・・・!
 休みだ!」
 そして

【うん!女バレーも休みだったよ!】

 と返信した。
 するとすぐに

【マジか!よかった!
 それじゃ来週の木曜日、先生に話す・・・?】

【うん!話そ!】

【了解。
 できるだけ先生と話すときは俺が話を進められるようにするな。
 でも、あの緑ちゃんたちにやられた時の状況説明を言うことになったりしたら、その時はよろしくな。】

【分かった!
 ありがとう!
 よろしくね!】

 すると『グット!』と書いているスタンプが返ってきた。
 私もそれに対して『ペコ』っと頭を下げている女の子のスタンプを返した。
 そしてスマホを閉じ一人静かに
『頑張るぞっ!』
 と気合を入れた。

 次の日・・・。
 私は、緑ちゃんたちに監視されつつ、後はいつものように過ごした。
「今日めっちゃ緑ちゃんたちを見かけるんだけど、優笑大丈夫?」
「うん。多分緑ちゃんたち、私が誰かに”緑ちゃんたちにいじめられました”みたいなことを言っていないか確認するために見てるんだよきっと。
 だから多分何にもしてこない。」
「そういうことか。
 相変わらずこういうことには敏感だよな。」
「ね。」
 そう広瀬君と言葉を交わし、部活に向かう。
 今でも、あのうその噂を流されてから同学年のことは部活でも避けられてしまう。
 でも、もう前のように”なんで・・・”とかってことは思わないようにしている。
 それに、何も知らない先輩が仲良くしてくれるようになって、一人ではないから。
 だから何とかやっていけている。
「「―――――ありがとうございました!!」」
 そう体育館にお辞儀をし、ミーティングをし、ここ最近の私のルーティーン通りに先輩に
「お疲れ様です!
 今日もありがとうございました。
 明日もよろしくお願いします。」
 といって、すぐに学校を出た。
 今日は、女バレの方が早く終わったので男バレの広瀬君は当然いない。
 まあ、話すことも大してないので別に大丈夫だけど・・・。
 でも、いつの間にかそんなことを考えている自分に驚いた。
 家に帰って、宿題をかたずけ、お菓子を食べる。
 そして明日の授業の予習をし、ご飯を食べにリビングに向かう。
 すると・・・「ピコン」とスマホが鳴った。
『広瀬君・・・かな?
 何か話すことあったっけ?』
 そう思いながら画面を開き送り主を確認した。

【歩ちゃん メッセージ一件】

「えっ!歩ちゃん・・・!」
 思わず声に出てしまった。
 そういえばここ最近全く話していない。
 私はメッセージを読み、返信するために部屋に引き返した。
 そして、内容を確認した。

【優笑ちゃん元気?
 最近何の報告もなかったから、大丈夫かなって心配になって連絡しちゃった。
 急にごめんね。】

 私は内容を読み終え、心配をかけてしまっていたことに罪悪感があった。
『・・・歩ちゃんにもたくさん迷惑かけて、助けてもらったりしてお世話になったのに連絡一つしないで心配かけるとか最低だ。』
 そう思い、今までのことを話すため、前回は何のことを話して終わったのか確認した。
 最後に話したのは私が学校を休んでしまったときのことだった。
「意外と最近だ・・・」
 そう、私にとってはいろいろありすぎてだいぶ前に話したつもりだったけど日にちを確認すると一昨日くらいの話だった。
 だけど、心配させてしまったことには変わりない。
 そうして私は歩ちゃんに休んだ日の後のことを話した。

【歩ちゃんに心配かけちゃってごめん。
 私は大丈夫!元気だよ!
 あれからのこと、話すね!

 次の日、しっかり学校に行ったんだ。
 そしたら、案の定緑ちゃんたちに呼ばれて人のいないところに連れていかれた。
 それでいろいろ言われたり、叩かれたりした。
 で、昼休み終了のチャイムが鳴ったらさ、
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
 もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
 みたいに言って教室に戻っていったの。
 でも、そのあと保健室に行った私のところに広瀬君がきてくれて、いろいろこの後どうするのか話した。
 本当に広瀬君はいい人で、すごく心配してくれるんだ。
 でも、逆に緑ちゃんたちは最低な悪い人だってわかった。
 緑ちゃんたちに叩かれたりしたのが昼休みのことだったんだけど、そのあとの放課後の部活に行くときたまたま緑ちゃんたちに会っちゃったの。
 私は何も言ってないんだけど、グループの一人がなんかこっちに向かってきて何かしようとしてきたんだ。
 だけど、緑ちゃんが
『ここは人目に付くからダメ!』
 みたいなことを言って、その人を連れてどっかにいちゃったんだ。
 最低だと思わない!?
 人目に付くところでは何もしていない普通の生徒を装って、で人目のつかない裏では人をたたいたり悪口言ったりって悪魔みたいなことしてるんだよ?
 だから、私は改めて悪い人だって思ったの。

 っていうことぐらい、かな。】

 そうして、送った後に私は肝心なこれからやろうとしている作戦のことを言い忘れたことに気が付きまた文字を打った。

【あ!
 それで、広瀬君と次にやろうとしてる作戦のことなんだけど、最後に言われた
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
 もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
 って言葉を利用して、またいじめてもらって、それを先生に直接見てもらうっていう作戦なんだ。
 もちろん、昼休みの最後までやられてたら私も耐えられないから、広瀬君にすぐ止めてもらう事になってるんだけど。

 それならさ、直接先生に見てもらうんだから、今度こそあの”私はいじめていなくて、逆に私がいじめられている”ってことを信じてもらえる気がするんだ。
 歩ちゃんは・・・どう思う?】

 送信ボタンを押すと返信が思ったより早く帰ってきた。

【そっかそっか・・・。
 なんか本当に緑ちゃんたちの怖さは人知れないなって感じた。
 作戦、私は反対しないけど、気を付けてね?
 これでめっちゃケガしちゃったら大変だから。
 なんかやばいかもって思ったらすぐにその近くにいる広瀬君呼ぶか、すぐに逃げてね?
 あと、もしその作戦が成功したらきっと先生も信じてもらえると思う!
 だから、がんばって!
 いつそれ実行するの・・・?】

【来週の木曜日にしようって話してる。】

【そっか。約一週間後だね。
 頑張って!】

【うん!ありがとう!
 歩ちゃんも学校頑張ってね!】

【わかった!
 ありがとう!】

 そうして、やり取りは終わった。
 つい最近までは『味方なんていない・・・。』って思っていたのに人間は何かのきっかけさえつかめば少しずつ変わっていけるんだなと思い、しっかりと光のある未来の方へ進んでいけている気がした。